連載 21世紀の『家庭教師』課外授業

第1回:「どぉなっちゃってんだよ」ミュージックビデオ

音楽専門誌『GB』記事を
スペシャル公開!!

岡村靖幸「どぉなっちゃってんだよ」(1990)ミュージックビデオ

この連載は、圧倒的名盤と称されるアルバム『家庭教師』(1990年)完成に至る当時の時間の流れを、現在の時間の流れとリンクするような形で展開していきます。

『家庭教師』を含む岡村靖幸プロモーション担当だった私、福田良昭が1997年来、24年ぶりに復帰、本講のナビゲーターを務めさせていただきます。

この連載を通じて、あらためて1990年の岡村靖幸の動きを再検証しながら21世紀の『家庭教師』の補習となればと思っています。

連載第1回のテーマは「どぉなっちゃってんだよ」ミュージックビデオ。

ロンドンで撮影されたこの映像の記憶を呼び起こすために、当時、この撮影に現地で関わった方で、現在唯一連絡が取れる大竹健さんにインタビューしました。

大竹さんは、当時EPICレコード制作部に在籍。多くのアーティストの海外での制作活動を現地長期滞在でフルサポートしていました。多くの名盤の陰に彼の大きな存在があるといわれています。

TM NETWORK『CAROL』(1988年)、佐野元春『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』(1989年)、DREAMS COME TRUE『LOVE GOES ON…』(1989年)、小室哲哉『Digitalian is eating breakfast』(1989年)、TM NETWORK『DRESS』(1990年)、渡辺美里『HELLO LOVERS』(1992年)などの制作に関わり、数年に渡ってロンドンに拠点をおいていました。「どぉなっちゃってんだよ」ミュージックビデオ撮影もこの間に行われました。

証言者:大竹健

株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント コーポレートSVP|株式会社ソニー・クリエイティブプロダクツ代表取締役執行役員社長]

「音楽におけるダンスの価値を解いたのは、当時、岡村くんだけだった」

海外向けデモ音源制作は岡村靖幸を海外にプレゼンテーションするために行われ、2曲の英語詩のカヴァーをレコーディング。1曲は「Lion Heart(仮英題「HOPE」)、もう1曲は「友人のふり」(仮英題「Love Rain Over Me」)。

岡村くんは幼少時ロンドンにいたこともあり、英語の発音がとても自然でした。多くの日本人アーティストが英語の歌唱する際、“頑張った感”がどうしても拭えないですが、岡村くんの英語はとてもナチュラルで、海外の人にもきっと伝わるものと思っていました。デモ音源は仮歌まで制作されましたが、残念ながら様々な事情でプレゼンを実現することが出来ませんでした。

ダンスレッスンは彼の今後のクリエイティヴの進化を目的とし、かつミュージックビデオ撮影用にセットされたものだと記憶しています。

専属のコリオグラファーのシレーナ(TM NETWORK『CAROL』ライヴ・ステージも担当)によるダンスレッスンは、彼の滞在中、多くの時間を割いていたと思います。ミュージックビデオ「どぉなっちゃってんだよ」に出演のダンサーのセレクトや振り付けを彼女が担当しました。

ミュージックビデオの撮影はロンドン郊外のスタジオで行われました。日本から坂西伊作、ウェンディ・フェイガン(当時EPICレコード映像制作部に所属、DREAMS COME TUREのデビュー・アルバムのヴィジュアルなども担当)、そこに現地撮影監督が加わり撮影が進められました。撮影監督のフルネームがどうしても思い出せないです……恐縮。

撮影現場では、岡村くんが監督と積極的に英語で対話をしながら、彼が納得いく形で進んでいたと記憶しています。ただ、その一方でスタッフ間では激しい議論もありましたが、トラブルはなく1日で撮影は完了しました。その後の現地での編集作業にも岡村くんが加わりビデオが完成しました。

今この映像を観ると、当時のミュージックビデオにはなかったダンスを前面に出した映像で、色調のクオリティも素晴らしく、画期的なビデオだと改めて思いました。35ミリで撮ったのでしょうか? ロンドン撮影の大きな理由のひとつに、当時日本に無かった機材を使用することがあったと聞きましたが、はっきりした記憶はありません。

振り返ってみると、音楽におけるダンスの価値を解いたのは、当時岡村くんだけではなかったか、この後にダンスを前面に打ち出すアーティストが次々に世の中に登場し今ではダンスの才能溢れるたくさんのアーティストが、音楽とダンスの価値を見事にマッチさせとても高い評価を得ています。岡村くんはそういったアーティストのパイオニアだったんだと思います。

余談ですが、岡村くんが滞在中に、彼が幼少期に過ごしたエリアをセンチメンタル・ジャーニー風にふたりで訪ねたことも記憶に深く残っています。僕にとって、彼との1か月はとても大事な時間でした。

「どぉなっちゃってんだよ」ミュージックビデオは、その後ビデオシングルディスク(VSD)として1990年11月1日にリリースされました。わずか1曲入りのビデオパッケージでした。この頃はこのパッケージ・メディアを広めるため、岡村靖幸をはじめ当時のEPICのメインアーティストが同様に1曲入りのVSDをリリースしていました。販売価格は1200円、商品番号:ESFU-7202(現在廃盤)。

ナビゲーター:福田良昭
株式会社ソニー・ミュージックダイレクト ストラテジック制作グループ 制作一部 部長
1984年ソニーミュージック入社。EPICレーベルの洋楽・邦楽で主に宣伝・マーケティングの仕事に携わり、小室哲哉(ソロ作品)、大澤誉志幸、岡村靖幸(1990~1997年)らを担当。2005年ソニー・ミュージックダイレクトに異動、カタログ・企画盤の制作を担当する。2021年、24年ぶりに岡村靖幸の担当に復帰した。


音楽専門誌『GB』1990年9月号から

「どぉなっちゃってんだよ」記事をスペシャル公開!!

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『GB』1990年9月号[1990年7月24日発売|CBS・ソニー出版]より(エムオン・エンタテインメント)