柳家喬太郎

落語の真髄がここにある。DVDで愉しむ珠玉の芸。

落語研究会柳家喬太郎名演集

柳家喬太郎 × 京須偕充(落語プロデューサー)対談前編

柳家喬太郎 × 京須偕充(落語プロデューサー)対談後編

3枚組DVD-BOX

  • 落語研究会 柳家喬太郎名演集
  • 品番:MHBW486-488 / 価格:¥15,000+税
  • 12P特製ブックレット封入
  • 初回購入特典 特製ポストカード付
  • 落語研究会 柳家喬太郎名演集
  • ※特典がなくなり次第、終了となります。
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    Sony Music Shop

単巻DVD販売※DVD収録内容はBOXと同様となります。

収録演目

  • DVD-BOXDisc.1 / 単巻DVD〈一〉
  • 牡丹灯籠より お札はがし〔’06〕/錦の舞衣(上)〔’12〕/錦の舞衣(下)〔’12〕
  • DVD-BOXDisc.2 / 単巻DVD〈二〉
  • 布哇の雪〔’09〕/擬宝珠〔’05〕/橋の婚礼〔’07〕/宗漢〔’15〕/山崎雛子作 孫、帰る〔’14〕
  • DVD-BOXDisc.3 / 単巻DVD〈三〉
  • お菊の皿〔’07〕/饅頭怖い〔’09〕/錦木検校〔’13〕/宮戸川(全)〔’15〕

■構成・演出:今野徹 ■解説書執筆:田中優子 京須偕充

製作著作・発売元:TBS 発売協力:株式会社TBSサービス 販売元:ソニー・ミュージックダイレクト

現在の「第五次落語研究会」がスタートしたのは1968年、なんと今年50周年を迎えた。その長い歴史の中から、六代目三遊亭圓生、八代目桂文楽、古今亭志ん朝、五代目柳家小さん、といった昭和の巨星たちの貴重な映像化(DVDBOX)がなされてきた(現役では唯一「柳家小三治全集」)。
このラインナップに新たに加わるのが平成の落語界を実力・人気ともにリードしてきた柳家喬太郎。つねに古典と新作に新風を吹き込んできた喬太郎師匠が、この落語研究会シリーズにも新たな扉を開く! 
商品発売を記念し、落語研究会の解説でおなじみ、落語プロデューサーの京須偕充さんとの対談をお送りします。
落語の歴史からその未来まで語った一万字に及ぶ長い対談の、まずは前編をお届けします。

落語研究会 柳家喬太郎名演集一

●やんちゃだった落語研究会での喬太郎

喬太郎:  どんなネタ(演目)だったか覚えてませんけど、二ツ目になったときに研究会の高座に出させていただきました。落語ファンの頃にテレビで『落語特選会』――当時(昭和50年代頃)は番組名が『落語特選会』でした。それを月イチでしたかね、今みたいに情報が簡単に手に入らないじゃないですか、だから「次は誰なんだろう」ってワクワクしながら見てました。「やった、この師匠だ!」「やった、このネタだ!」「え、知らない噺だ!」って、ときめいていたのを覚えています。その高座に今自分が出られるっていう。出番をいただいて、高座に上がってお客さんの前にお辞儀して、しゃべり始めてからフッとその頃を思うときもありますよね。そうすると、本名の素の自分に戻っちゃって、「おまえ、何やってんだ、ここで」(笑)。
落語研究会は、ホール落語の中でも特別な会ですよね。歴史はあるし。で、正直言いますと、お客様が厳しい会という。昔のプロデューサーの白井(良幹:故人。第五次落語研究会の名物プロデューサー)さんには、二ツ目の頃ふざけ過ぎて、ちょっと嫌われたこともあったり(笑)しましたので。

京須:  (笑)

喬太郎:  「まあ、二ツ目だから別にテレビ放送はされないし」と思って、テレビの落語特選会のパロディみたいなマクラを振ったんですね。会話形式で、「え、今日は落語特選会、柳家喬太郎さんの『松竹梅』をお届けします」と言って、そのあとコマーシャルみたいなネタを振って、マクラもやらずに本編に入ったり、「反対俥」のときに立ち上がってみたりとか。たまたま演芸場のモニターで見てた同期の(入船亭)扇辰さんに、「驚いたよ、喬ちゃん立ち上がってたねえ。(川柳)川柳師匠かと思ったよお」って言われたことがあって(笑)。そんな感じだった。でも、白井さんとほかのところでお目にかかると、なんとも言われなくて、かわいがっていただいて、「次の放送はこの人だよ」ということを教えてくださいました。

京須:  白井さんはおそらくね、やんちゃ坊主みたいに思ってたんじゃない?

喬太郎:  だと思います、はい。

京須:  でもあの人のことだから、「この子なら許すけど、こっちの子じゃダメだよ」みたいなのもあったんでしょう。で、まあ、ときどき眉をひそめながら温かく見守っていた(笑)というところはあるんじゃないかな。

喬太郎:  そうですね、そんな感じだったかな。

京須:  一発で「もう出なくていい」って言われた人もいるらしいから。

喬太郎:  はははは!

京須:  あれも伝説でね。本当のことはわかりません。「もう来なくていい」ってんで、メクリの紙をその場で渡したという話が。

喬太郎:  はい、はい。

京須:  ありそうであり得ない話ですよ。当日そんなことはやってらんないはずだから。

喬太郎:  そうですね、僕もその話は聞きました。ま、それは都市伝説だと思います、たぶん(笑)。

京須:  できっこないじゃない、その場で一枚だけはずすなんて。ねえ(笑)。

喬太郎:  その頃はある種無鉄砲な、若気の至りみたいなトンガリ方もしてたんで、そういったこともあったと思います。ただ特別な会だからこそですよね、そういうことをできたのは。落語本編は僕なりに普通にやらせていただいていましたので。この会に出られるってことは光栄で、しかも怖くて、嬉しいような恐ろしいような、ずーっとそういう気持ちでいました。

落語研究会 柳家喬太郎名演集一誕生日に行われた発売記念記者会見から。

●古典落語と新作落語のブリッジ

喬太郎:  昔の研究会で(六代目三遊亭)圓生師匠とかも新作やられてましたよね。菊田(一夫)先生作の「水神」や、宇野(信夫)先生作の「江戸の夢」とか。

京須:  ええ。で、もっと言うと、この第五次落語研究会ができる前にね、NHKの東京落語会が、昭和33~34年ぐらいだと思うんだけど、やたらにいわゆる書き物をやったんです。それはその当時の作家や放送作家、映画監督などに、NHKが落語を書き下ろしてもらっていて、圓生さんでも(八代目林家)正蔵さんでも、一応、それに応じてやっていた。で、その時期に出演したけれども新作をやらなかったのは(八代目桂)文楽、(五代目古今亭)志ん生だけ。ほかの人はずいぶんやってました。もっとも圓生さんだって宇野信夫さんか菊田一夫さん、せいぜいその程度で。だから、今の新作とは別ものですよ。

喬太郎:  そうですよね。研究会で師匠方がおやりになってるのも、やっぱり落語も舞台が江戸時代だったり明治だったり昔の設定のもの。落語を知らない人が聴いたら古典落語なのかなっていうようなもので。だからまさか、「布哇の雪」など自分が作った噺が研究会でできるとは思わなかったですし、自分でやっといて何ですけど(笑)。家で研究会の放映見てて「熱血怪談部(林家彦いち)!?」と思って(笑)。すごく嬉しかったですけど。

京須:  それはもう、白井さんのあとでしょ?

喬太郎:  もちろん、ごく最近です。

京須:  変わってきたわけですよね。

喬太郎:  はい。でも、美学っていう意味では昔の研究会の価値観もとても大事だと思います。研究会って、僕とか彦いちさんみたいなタイプの新作落語をやらせていただけるようになっても、厳然と保ってる一線があるような気がするんですよね。なし崩しに新作落語もグズグズッ――新作がどうこうって言うんじゃないですけど、グズグズッと「何でもいいじゃん、面白ければ」っていうようなことでない。やっぱりスタッフの皆さん、プロデューサーの皆さんのポリシーみたいなものがある。それはまったく崩れてないと思うんですよね。

京須:  新作に対する扱いの、その一番元を作ったのはやっぱり白井さんなのかもしれない。

喬太郎:  そうですね。

京須:  白井さんという方は自分を語らなかったから、いろんな情報から察するだけなんだけど、落語の専門家というよりは、本当はドラマをやりたかった方なんだと思うんですよ。

喬太郎:  あ、そうですか。

京須:  ええ。ドラマのTBSじゃない? そのTBSでドラマをおやりになりたかったんだろうと思うけれども、まあ、出口(一雄:故人。ラジオ東京<現TBSラジオ>剛腕プロデューサー)さんに見込まれて落語の世界に入った。それで、落語の中に自分の演劇的なセンスを生かしてきた中で、古典と新作の間にどういうブリッジを架けるかということを試行錯誤したまま亡くなった人だと思うんですよ。

喬太郎:  それがそのあと、亡くなった今野(徹:2017年没。白井氏の後を受けて長年研究会のプロデューサーを務めた)さんの時代になって、出演者に僕ら世代も加えていただくようになった。たぶんその白井さんの、今、京須さんがおっしゃったそういう想いっていうのが一つ形になってきているのかもしれないですね。

京須:  「いくら優等生にやってもね、古典をそのまんまやってるんじゃだめだね」っていうようなことをよく僕に言いました、そういう噺家を見て。

喬太郎:  あ、そうですか。

京須:  だからときどきね、「あんなことをして!」って思ってもね、立ち上がったりする人を愛でていたという(笑)。

喬太郎:  立ち上がり方を考えりゃよかったな(笑)。

京須:  そういう人が20年でも30年でも君臨すると、一つのこの会の性格っていうものができてきますよね。

落語研究会 柳家喬太郎名演集一

●「ハワイの雪」が『布哇の雪』に

喬太郎:  「布哇の雪」を今野さんから提案されたとき(2009年)は、「いよいよ新作だ!」と思ったのと、初めてわがままをお願いしました。研究会ですから、僕ぐらいのキャリアの出演者が出番のことをお願いできるはずがないんですけど。「『布哇の雪』をやるんだったら、仲入り前かトリにしてください、あの噺のあとはほかの方がやりにくくなっちゃうと思うので」っていうのを今野さんにお伝えした記憶がありますね。

京須:  どこだったかは覚えてないんだけど、この噺はもう前に僕は聴いてたから、「ああ、あれならいいだろう」と思ったんですよ。

喬太郎:  二ツ目の最後の頃に作った噺なので、たぶん初演から10年ぐらい経った頃にやってる感じです。

京須:  新作の中であまりにもトンガッたようなものをね、トリかなんかでうっかりやるとね、「ふざけやがって」なんて言う客も必ずいるわけなんですよ。「布哇の雪」はそんなことにはならないだろうと僕は思って。一種の人情噺ですから。

落語研究会 柳家喬太郎名演集一Sony Music Shop
※単巻DVD〈二〉「布哇の雪」収録

喬太郎:  そうですね。今野さんがそのときに、「ただ喬太郎さん、ハワイを漢字にさせて」って(笑)。

京須:  僕はそのとき内心ね、「字だけ変えたってしょうがないじゃないか」って。「むしろアルファベットでいったらどうだ」って思ったの(笑)。

喬太郎:  今回チェック用にDVDを事前に送っていただいたのに、実は全部は見てないんです。まあ、ちょっと忙しかったのもあって(苦笑)、本当はチェックしなきゃいけないんですけど、今野さんが選んでくれた演目だったら信用していいやと思って。ほかにも何十席もやっているのに、その中で今野さんが選んでくれたんだったら、これはもう間違いないやって。ただ「布哇の雪」なんかを見ると、今だったら場内暗くしないのになあと思いますよね。あの頃だから演出効果のつもりでやったけど、今だと「ああ、自信なかったのかな、この頃は」とか、自分のことを振り返るきっかけにもなりますね。

京須:  あと、「あれは入ってないのかなあ」という噺がけっこうあるんですよね、まだ。

喬太郎:  ああ、そうですか。

京須:  つまりねえ、演目が多岐に、いろいろな方向にわたってるから。

喬太郎:  ああ……。「なんでこんなのが入っちゃったんだろう」というのもあるんですけどね(笑)。「橋の婚礼」なんて、「『橋の婚礼』? あ、そういやこんな噺、やったことあったっけな!」っていうぐらい。

京須:  (笑)

喬太郎:  忘れてて。「おいおい! これ商品化しちゃマズイだろ」と思って映像を観たんですよ。ただ、あんまりにもくだらなくって。

京須:  ま、一つああいうのがあってもね。

喬太郎:  ええ。ここまでくだらなければいいだろうと。僕が死んだあとで「この噺家はなんてくだらないことをやってたんだろう」って恥をさらすのも面白いかなっていう。

京須:  いいんですよ、喬太郎バラエティですよ。

喬太郎:  ははは。

京須:  「宮戸川」の通しもあるんだっていう一面もある。

落語研究会 柳家喬太郎名演集一Sony Music Shop
※単巻DVD〈三〉「宮戸川」収録

喬太郎:  ああ、そうですね(笑)。

京須:  :ただ、「仏馬」が入ってなかったかな。

喬太郎:  入ってないですね。

京須:  個人的にはちょっとそれは残念なんだけどね。

喬太郎:  あ、そうですか、うわぁ~わはは、そんな~。

以下後編へ

現在の「第五次落語研究会」がスタートしたのは1968年、なんと今年50周年を迎えた。その長い歴史の中から、六代目三遊亭圓生、八代目桂文楽、古今亭志ん朝、五代目柳家小さん、といった昭和の巨星たちの貴重な映像化(DVDBOX)がなされてきた(現役では唯一「柳家小三治全集」)。
このラインナップに新たに加わるのが平成の落語界を実力・人気ともにリードしてきた柳家喬太郎。つねに古典と新作に新風を吹き込んできた喬太郎師匠が、この落語研究会シリーズにも新たな扉を開く! 
商品発売を記念し、落語研究会の解説でおなじみ、落語プロデューサーの京須偕充さんとの対談をお送りします。 落語の歴史からその未来まで語った一万字に及ぶ長い対談の後編をお届けします。

落語研究会 柳家喬太郎名演集一

●取り組んでみたい圓朝もの

喬太郎:  圓朝ものは今までやってきた時期があって、新しいものはちょっと今のところお休みしてるんですけど、落ち着いたらまた新規に長いものをやってみたいな、ちょっと取り組んでみたいなと思ってる噺もあります。ちゃんと読んではいないけど、すごく興味を引かれる噺があるので。

京須:  圓朝ものはいろいろあって、近年誰もがやるっていうのがありますね。「牡丹燈籠」とか。それはどちらかというと、避けるっていう意味じゃなくて、もっとほかにこういうのがあるっていうのをおそらく考えていらっしゃると思うし、僕もそれを期待してるわけですね。

喬太郎:  けっこう前に、それこそ圓朝ものの掘り起こしで初めて取り組んだものは、まだ研究会ではやってないので、そういうのもこれからやってみたいです。ただそれは、やるとしたら2時間かかるっていう話なので、普通ではできないんですよね。もし機会があったら、前編・後編とかでやるとして、そうするとどこで切ればいいんだろう、どういうふうに編集すればいいんだろう、っていう楽しみはこれからありますよね。

京須:  まあ、私が言うべきことじゃないけど、落語研究会では、かつてある演者が2席分の時間で上演したってこともありますから。仲入り後にね。2人出るところが1人になって。

喬太郎:  うちの師匠だと「えー、疲れますよ……」なんて言いながらやると思います(笑)。

京須:  あとは2か月連続でね、分けていけば。

喬太郎:  そうですね、うちの師匠なんかもよくそれやらせてもらってましたね。

京須:  そうですね。

喬太郎:  今回DVDに入っているものでは、「宮戸川」の通しとか「錦の舞衣」とかも長編ですよね。研究会はある種の美学や、絶対崩さない一線っていうのが厳然としてあるんだけど、それさえあればかなり自由な、実験もできる会だと思うんですね。「この会でネタおろしするんだ」っていう師匠方の話もよく聞いたことがありますし、うちの師匠も言ってますし。

落語研究会 柳家喬太郎名演集一Sony Music Shop
※単巻DVD〈一〉「錦の舞衣」収録

京須:  そういう点から言えば、明治の落語研究会の原点に今戻っているのかもしれないですね。

喬太郎:  あ、そうですね。

京須:  古典を尊重するなんてことは全然、明治の落語研究会では言ってないですから。

喬太郎:  はい、そうですよね。

京須:  あの頃は古典も新作もないんですね。むしろ新しいものを作っていかないと滅んでしまうという危機感があった時代だから。

喬太郎:  噺の世界と現実世界と同じだったわけですからね。

京須:  戦後ですよ、新しいものと古いものを分けたのは。

喬太郎:  はい。

落語研究会 柳家喬太郎名演集一3枚組DVD 初回購入特典 特製ポストカード

●「茶代」でギャラ泥棒!?

喬太郎:  個人的にはですね、意外と古典の持ちネタが少なくって。スタンダードナンバーで持ってない噺がいっぱいあるんですよね。で、それも恥ずかしながら、今から勉強して、研究会の浅い出番でそういう普通の落語を普通にやれる力が欲しいなあと思います。「寄合酒」だとか「平林」とか。そういう噺を浅い出番でやって、悪ウケせず、お客様に心地よく楽しんでいただいて、次の師匠につなげるっていうようなことも研究会でやってみたいなっていう気がしますね。
以前、研究会で、単なる小噺を無理やり10分ぐらいに引き延ばした「茶代」っていう噺をやったんですけど、「アレは無理だろう、引き延ばしただろ、明らかに」っていう感じだったです(笑)。家でCSの放送を見て、「柳家喬太郎 茶代」ってタイトルが出たとき、「そんな話じゃねえ!」と思って(笑)。「ほんの小噺じゃん、これ! スイマセン!」と思ったことがあります(笑)。あのとき通帳の振り込み見て「俺、ギャラ泥棒だろ」とちょっと思って。こんなこと言っちゃいけないですよね、こんなこと言っちゃいけない、こんなこと言っちゃいけない、ははは!

京須:  「権兵衛狸」みたいな噺で(笑)。

喬太郎:  ふははは!でも、逆にああいうものも取り上げてくださるようになったっていうのは嬉しいですよね。

京須:  民話みたいなものですね。

喬太郎:  そうですね。でも意外と「茶代」は寄席では役に立ってるんですよね。

京須:  そうですよ。

喬太郎:  特に正月興行の高座時間が短いときは、ちょうどいいんですよね。研究会でもやった「宗漢(そうかん)」(DVD収録)、最近便利になってきた(笑)。

落語研究会 柳家喬太郎名演集一Sony Music Shop
※単巻DVD〈二〉「宗漢(そうかん)」収録

●幕末から現代の落語の姿が詰まったDVD BOX

喬太郎:  そもそも初めにこの部屋(この対談が行われた国立小劇場の楽屋)で、TBSの方からお話をいただいたときに、「(古今亭)志ん朝師匠とか、(五代目三遊亭)圓楽師匠とか、圓生師匠とか、そんな大変なボックスではなくて、現役の若手の方の、ちょっと軽く買えるようなものを出します」って言われたので、「ああ、それじゃあ、まあいいか」と思っていたら、見たらものすごくちゃんとしてるので、「ウソつきー!」って思ったんですよ(笑)。

京須:  (笑)

喬太郎:  もう、なんかビックリですね。これまでのDVD BOXの流れ汲んでますよね……またバッシングに遭うんでしょうねえ俺(苦笑)。「おまえが出しやがって!」みたいな(笑)。

京須:  だけどねえ、中身がやっぱり、不思議な、この人にしかできないっていうものになってる。ネタの選び方からしてね。

喬太郎:  はい。

京須:  なんかね、こじつけになるけども、幕末から明治にかけての頃の落語のひとつの精神のようなものを柳家喬太郎という人が、再現して聞かせてくれているんだという感じがしますよ。

喬太郎:  ああ、ありがとうございます。

京須:  古いものから、新しいものまで。幕末の頃の落語家の多くがそういう人たちだったと思うんですよ。圓朝だってそうだったんじゃないかと。

喬太郎:  はい。圓朝師匠も当然、芸人だと思うんですよね。初代(三遊亭)圓遊師匠はもちろんそうですけど、速記本拝読してて、もちろん文芸としてものすごく素晴らしいけど、芸人の目から読むと、「圓朝師匠、これ、ただ言いたくて言ってるだけだよな」っていう気がするところもあるんですよ。一席ものなんかは特に。「ここを丸っきりカットしても全然大丈夫だよね」という箇所もあるので。もちろん、圓朝師匠は崇め奉らなければいけない存在なんですけれども、奉り過ぎて、見えなきゃいけないところが見えなくなることも怖いと思うんです。それは自分が芸人だからかもしれない、芸人の目だからできる作業もあると思うので。だから昔の師匠方の速記を拝読して、「これ、目の前の客にウケたいから引き延ばしてるよね」と思うときもあるんですよ。「擬宝珠(ぎぼし)」(初代圓遊作)なんかはそうだったし。でも、ふとそれを思ったときに、誤解かもしれませんし非常に不遜なのかもしれませんけど、改めてその先人たちの流れの上に今自分たちがいるという気がしたんです。圓朝師匠や圓遊師匠や、柳派の師匠方にしても、まったく別の昔の、雲の上の世界の話ではなくって、血が通ってる感じがするんですよ。その流れで今俺たちがいるんだってこと感じるときがありますね。……こんなちゃんとしたこと普段は考えてないですけど(笑)。

落語研究会 柳家喬太郎名演集一3枚組DVD 初回購入特典 特製ポストカード

●芸人がやりたい口説き

京須:  落語と遊べる演者というか。もちろん能力がなきゃダメだから、落語と遊べる演者の、数少ない現役の一人だと思いますよ。

喬太郎:  3日前に金沢で、師匠と親子会がありまして、「擬宝珠」をやりました。うちの師匠がまくらでニコニコ笑いながら「ああいうふうに育てた覚えはないんです」って言ってまして(笑)、私もそういうふうに育てられた覚えはないんですけど、と思いながら(笑)。

落語研究会 柳家喬太郎名演集一Sony Music Shop
※単巻DVD〈二〉「擬宝珠」収録

京須:  (笑)ちょっと型の違った師弟関係ではあると思う。

喬太郎:  そうですね。ひょっとしたら、比べるのはおこがまし過ぎますけど、圓朝師匠のところから圓遊師匠が出たっていうのも、たぶん当時のお客さんからすると「なんでステテコなんか踊ってるヤツが圓朝の弟子なんだ」って思われたんじゃないかっていう気がするんですよ。

京須:  そうでしょうね。でも、圓朝は破門にもしなかったわけで、そこらは微妙なとこでね。

喬太郎:  そうですよね。だから「いいのかな、これでも」っていう気はします。それは、ねえ、そりゃ圓朝や圓遊師匠方と比べちゃいけないんですけど、突然変異と言いますか(笑)。

京須:  圓朝も若い頃はけっこう赤い襦袢をちらつかせるような、そういうキザな芸だったっていう。

喬太郎:  キザだったっていわれてますよね。

京須:  圓朝はね、芸人じゃなくて、文化人になろうとした一面もあったんで、そこばっかり拡大して今見られてるけど、やっぱり芸人だったんだと思いますね。

喬太郎:  思います、はい。とっても芸人だと思います。噺家さんっていう側面がやっぱりもうちょっと……僕らはそれをわかってなきゃいけないのかな。それを世間に広める必要はないと思うんですけど、この世界で生きていくんだったらそういう気持ちも、芸人は持ってたほうがいいのかなっていう気がします。

京須:  圓生師匠がね、圓朝の「怪談乳房榎」で、どうしてもやりたくてしょうがないところがあるんだと。蚊帳の中で「いちど拙者と……」って口説くでしょ、あそこをどうしてもやりたいって。

喬太郎:  はあー。

京須:  どうしてもやりたいんだと文楽さんに言ったら、文楽さんがね、ヘヘッと笑ってね、「おまえさんは趣味がよくない」って(笑)。

喬太郎:  はははは!

京須:  これ、僕がすごく好きな話なんですよ。2人とも芸人だと思うんです。

喬太郎:  そうですね。あ、でもそれを知ってか知らずか、亡くなった(柳家)喜多八兄さんも、あそこがやりたいって言ってました。「乳房榎」は口説きがやりたいって言ってました。ただ、あの、もっと下世話な表現をしてましたけどね。「だっていいじゃん、やらしくって」って言ってましたけど(笑)。

京須:  そこだけでよかったんです(笑)。

喬太郎:  そういうことですよね(笑)。でもそういうことでもいいのかもしれないですね、落語ってね。全部やりたいというものもあるけど。いやあ、スケベだったり酒飲みだったり、そういうのがやっぱりあるから芸人だと思うんですよね。

京須:  志ん生さんがね、「文七元結」のマクラで「千里を駆ける馬にはどうも悪い癖があるようでございまして」ってよく言ってたの。いい腕の職人でしょ、長兵衛は。名人ゆえに、どっかに突っ込んでっちゃう。それで、博打に転んでしまうんだということを、そんなに説明的じゃなく志ん生は言ってたんです。

喬太郎:  圓朝ものでは、あれですよね、「名人長二」の長二みたいな、清廉潔白で女遊びもしない酒も飲まない博打も嫌いっていうような人は、たぶん芸人に向いてないと思うんです。そういう人はほかの商売に就いたほうがいいと思います。

京須:  で、あの人はそうだったろうなと思う人っていっぱいいますよね(笑)。

喬太郎:  はい(笑)。今だって「え、まさかこの人が」っていう人が、「え、こんな一面が?」っていうのはあるかもしれないですね。

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●豊かになってきている落語界

京須:  研究会は続いてきてるけど、変わってもきてる。

喬太郎:  僕なんかはテレビで自分のを見るときに、ねえ、昔なら圓生師匠ですしね、志ん朝師匠ですし、うちの大師匠だったりとか、上方だと、松鶴だ米朝だ文枝だ春団治だでしょ、枝雀師匠に圓楽師匠に、ブワーッときら星のごとく、もう、すごい師匠方が出てるところに、同じように名前が出て演目が出て同じところに僕が座って、「もう何やってんだよおまえ」と思うんですけど(苦笑)。ただその半面、同世代とかちょっと先輩とかね、圓太郎兄さんとか文蔵兄さんとか扇辰さんとか、歌武蔵兄さんとか、兼好くんも一之輔くんも白酒くんも三三くんなんかが出ているのを観ると、そういうふうには思わなくって、頼もしいし嬉しくなってくるんですよね。「こういう時代になったんだな」って、ほかの仲間を観ると思う。自分のは恥ずかしいですけどね。

京須:  30年前に比べるとお客の層が若返ったり女性の比率が高まったりしてね。で、このDVDに入ってるような珍しい噺もやる方も出てきたりで(笑)、むしろ落語の世界としてはね、権威の大きな山はないのかもしれないなと思って。とっても豊かになってきてる。

喬太郎:  ああ、そうかもしれませんね。そんな気もします、はい。

京須:  私が落語を飽きずにここまでやって来てしまったのも、そのためだと思ってます。だって僕、最初は圓生師匠(「圓生百席」)が終わったらやめようと思ってたんだ、落語の仕事。

喬太郎:  あ、そうですか!

京須:  そしたら、途中で志ん朝さんがものになりそうになったので、つまり録音をさせてもらえそうになったので、「そんなもったいないことを言っちゃいけない」と思い直したわけです。

喬太郎:  「志ん朝さんがものになりそうになった」って発言もすごいですけどね(笑)。でもでも、そういうことですよね。

京須:  ええ、そうなんですよ。

喬太郎:  そのおかげで今僕らにもつながって。すごい嬉しいですね。

2018年11月30日 国立劇場小劇場楽屋にて

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