オールスター80’sノンストップ・ベスト

オールスター80’sノンストップ・ベスト
松本みつぐ(DJ)×後藤達也(制作担当)

80年代J-POPヒッツを「46分」のひとつに繋げた『オールスター80’sノンストップ・ベスト』。プロデュースを手がけたDJ 松本みつぐと制作担当の後藤達也が対談。音楽をこよなく愛するふたりのタッグで生まれたノンストップDJミックスのヒストリーから振りかえってもらった。

松本みつぐ(DJ)

僕は50年近くもこの世界にいるDJだから“ノンストップ“が普通のことなんだけどね(松本)

松本    この前、やっぱり同じようなことを質問されたことがあるので、いま実際にノンストップ需要というのはあるんでしょうね。でもそれこそDJの立場から見ると、僕の中でノンストップというのは特別なことでもなんでもなくて、当たり前のことで、昔からある風景で、もう普通の生活の中の一部なんですよね。

後藤    みつぐさんの場合はノンストップ状態のほうが普通?

松本    50年近くこの世界にいるから、それが普通(笑)。それがずっと僕の仕事だったからね。

後藤    実際、ノンストップ音源自体は昔からありましたよね。それこそ僕なんか足繁く通った80年代当時のディスコは、みつぐさんのようなお店のDJが作っているミックステープ……あ、違法合法はとりあえず置いといて、確かに存在していましたよね。

松本    そう。ノンストップって、ディスコ行かないと聴けないっていうのがあったじゃないですか。だから勝手に録音機を持ち込んでフロアで平気に録ってる不届き者もいましたね。あ、これは完全に非合法ですよね。この音楽業界にもたくさん残っていますよ、僕なんか顔が浮かんできますから、今でも大活躍している、ホラあの方とか……。

後藤達也(制作担当)

みつぐさんは現役のDJでプロフェッショナルな方ですから最終的にはリスナーの立場を死守してくれていると思うんです(後藤)

―― 後藤さんは以前、別のインタビューで「ディスコDJから音楽を教わった」ということを語っていましたね。ALL STAR EVERGREEN BESTインタビューはこちら

後藤    僕は、DJの方に、いまフロアで流しているのは何という曲ですか? って聞いて、その場でメモして、レンタルレコード屋に行って。悔しいけど若すぎてノンストップにする機材はなかったから、レンタルした曲を普通にカセットテープにダビングして「ディスコテープ」を作っていました。

松本    そうそう。そういう渇望から生まれたのが開局したばかりのFM横浜の深夜で放送していた『MARUI 24CLUB』(1986年)だったんだと思いますね。当時、流行っていたディスコの店内で流れていた繋がれたトラックを番組でオンエアする画期的な番組でしたよね。ものスゴい人気でしたからね。その流れから発生した人気シリーズが『ザッツ・ユーロビート』だったんだよね。

── ディスコに行けない人のためのアルバムでもあったんですよね。

後藤    そうですね。90年代に突入してから、多発された洋楽ディスコ系ノンストップCDは、行ったことないけれど、実際にディスコやクラブはどんな感じかっていうのを疑似体感したい人がたくさん手にしたかもしれませんね。

松本    うちの店のウェイターとかは地方から来てる子多かったんですよね。やっぱり地方だから、車がないとダメなんですよ。「ディスコは近くにないから行けないけど、車の中はもうノンストップでガンガンでした!」って(笑)。「レコード屋さん行っても、イケてるノンストップある? とか私の彼氏、店の人に聞いていました(笑)」って。

後藤達也(制作担当)&松本みつぐ(DJ)

最初の頃は難しかった。何を残して何を優先すればいいのかの自問自答。後藤さんの手腕が問われるわけですよ(松本)

曲順はお任せしますがCDのオープニングとエンディングの曲はこちらが指定することが多いですね(後藤)

── DJとリスナーとして同じ時代を共有したお二人が仕掛けた、21世紀型ともいうべきノンストップDJミックスCDはどうやって生まれたのですか。

後藤    もう時間が経って今は発売されていないのですが、いちばん最初にみつぐさんに作ってもらった作品が『ノンストップ・ディスコ・ナイツ』(2004年)で、6万枚も売れたんですよ。当時としてはけっこう良い数字でしたね。80年代当時ディスコで聴いていたようなノンストップCDを作りたいという憧れの想いからまずはスタートでしたね。曲と曲をDJが繋いでいくことに海外版元が許してくれるのだろう? なんだかんだいってもCDを買うお客さんはフル尺を望んでいるんじゃないのだろうか? 2000年代中盤にノンストトップ需要はあるのだろうか? 疑問ひとつひとつの答えが出せないまま、海外許諾が降りていき、その状況をみつぐさんに伝えながら着手してもらいましたね。

松本    これも難しかった。70年代後半から80年代前半までのこの時代はイントロ命の曲が多いんだよね。言いかえれば出だしが命。でもイントロとイントロを繋ぐことは出来ないから、何を残して何を優先すればいいのかの自問自答。

ノンストップ・ディスコ・ナイツノンストップ・ディスコ・ナイツ(2004年)
*販売終了

── 最終的には何を優先するんですか?

松本    そこはまさに後藤さんらディレクターの手腕ですよね。何をテーマに選曲したのか、誰の何の曲からスタートするのか……これを決めるのは僕ではなく企画立案者のディレクターですからね。

後藤    そうですね。CDのオープニングとエンディングの曲はこちらが指定することが多いですね。でも曲順は選曲許諾リストからもうお任せです。あんまりそこにこちらの思惑が入りすぎちゃうと、今度は、聴いたときの気持ち良さっていうのが薄れてしまうと思うんです。みつぐさんは現役のDJでプロフェッショナルな方ですから最終的にはリスナーの立場を死守してくれていると思うんです。僕は良くも悪くもレコード会社のプロデューサーという立場もあり、どうしてもマーケティングとして成功させなければいけません。そういった意味でも誰もが知っている有名で強い曲を前半に推す傾向はあります。

歌姫~パーティー・ベスト non-stop mix~(2016年)歌姫~パーティー・ベスト non-stop mix~(2016年)

―― 今まで一緒に組んで手がけてきたシリーズにも色濃く反映されているのでしょうか。

後藤    『歌姫~パーティー・ベスト non-stop mix~』(2016年)もみつぐさんにはお世話になりましたね。人気コンピとなった『歌姫』シリーズの第20弾企画として、80年代、90年代の大ヒット曲を厳選してオリジナル音源J-POPをDJミックスで30連発ノンストップ収録!

松本    ……って言葉(文字)にしちゃうと簡単に作業に聞こえちゃうかもしれないけど、これも……大変でしたね(笑)。収録曲の年代が幅広い分だけあって、時代の音も違い過ぎてね。さらに作った人でも音色が全然違うのでこれ本当に同じアーティスト? 同じ年?? なんていう場面もたくさんありましたね。いちばん顕著だったのが、手打ちの場合と打ち込みの場合。DJの力量が試される仕事でもありますがお手上げに近い瞬間も何度も(笑)。

後藤    お手数おかけしました(笑)。さらに10年遡って、70年代~90年代になったら、もう繋げないですか?

松本    絶対繋げないってことはないけれど、アナログとデジタルの違いは出てきちゃうよね。70年代のアナログの温もりと、90年代のデジタルの正確なグルーヴ。80年代は手打ちと打ち込みが混在しているしね。

松本みつぐ(DJ)

音の差し込みが出来たら僕は苦労しません……というかヤラせてよ!(笑)(松本)

── 時代から生まれる音の差異は追加音で埋めたりするわけですか?

後藤    おっと、そんな無邪気な質問をしますか(笑)?

松本    音の差し込みが出来たら僕は苦労しません……というかヤラせてよ! 後藤さん説明して(笑)!

後藤    わかりました。後藤、説明します。僕らがいろんなレーベルとか所属事務所にノンストップミックスCD企画を説明する時に基本となる約束事があるんです。これはうちの契約部が外のメーカーに対して言っていることだから、その逆はできないし、僕らも必ず守っています。まずその①。オリジナルの曲の改変はしない。つまりテンポをアップしたりとか、2コーラスあってからサビ楽曲を、1からサビに急変したりとか改変いたしません!ということ。その②。前の曲と後ろの曲でそれぞれの音のクロスフェードはOKだけど、そこに新しいエフェクトを勝手に加えたり、効果音などを加えてはいけません!ということ。

後藤達也(制作担当)

アーティストの立場から見れば意図しない編集をされたらたまったもんじゃないですからね(後藤)

―― おっと、そんなルールがあったんですね。

後藤    アーティスト作品の尊厳を守るための厳しいソニールールとも言われています。アーティストの立場から見れば意図しない編集をされたらたまったもんじゃないですからね。

松本    邦楽は洋楽よりもノンストップされることに段々寛容になってきている時期なので、いまは繋げられるだけラッキー!と割り切ったほうがいいですよね、後藤さん?

後藤    (だまって頷く)

松本    でもこの厳しいルールが時に僕にとっては、割り切りや作業の効率も含めてほどよい束縛だったりするんですよね。自分でも全然想像していなかった新しいグルーヴ感が生まれたりする時はゾクっとしますよ。1+1で繋いだはずなのに、3ぐらいの立体感を持った新世界が見えた時はDJ冥利につきますから。

松本みつぐ(DJ)

曲ごとのBPMを書いた紙切れをテーブルいっぱいに並べるんです。もうパズルですよね(松本)

―― その新しい世界を作るために必ずやらなければいけない基本作業もあるんですよね。

松本    まず、曲ごとのテンポをはかるんですよ。BPMですね(編集部注:Beats Per Minuteの略語で1分間で何回拍を数えるかを示す速さの基準数値)。曲数と同じ小さい紙切れにBPM数字書いてテーブルいっぱいに並べるんですよ。もうパズルですよね。前作の『ノンストップ・クライマックス』も今作の『オールスター80’sノンストップ・ベスト』と同じで30枚並べましたね。

ノンストップ・クライマックス(2016年)ノンストップ・クライマックス(2016年)

松本    この曲は125。はいコレは138。ああ意外と遅くて100なんだとか言いながら(笑)。で、最初、単純にテンポの低い順に並べていくんですよ。後半にだんだん上がっていくようにして最後の曲は高速にします。大体このままで繋げるとつまらないノンストップCDになっちゃうんです。これは本当に簡単なことで技術があれば誰でも出来ますね。そこで、後藤さんのリクエストを想い出すわけです(笑)。

後藤    想い出していただきありがとうございます(笑)。

松本    今回は「<フレンズ>と<Get Wild>と<My Revolution>は80年代でも特に人気のある曲だから前半がいいなー」「2017年の最新の市況として○○○です」~って言っていたなと。そこに測ったBPMの数値を加味して、音色を吟味して、男女ヴォーカルを分別して、編曲を確認して繋ぐ曲は決めます。

後藤達也(制作担当)

予想を遥かに超えながら見事な繋ぎと並びになって仮ミックスという形で僕の元に30曲が戻ってくるんです(後藤)

後藤    みつぐさんにお預けした段階で、きっとこの曲とこの曲は近くに配置されるだろうなって想像はできるんですよ。発表された年や曲が持つ雰囲気から「ペガサスの朝」(五十嵐浩晃)、「初恋」(村下孝蔵)、「約束」(渡辺徹)はやっぱり繋いでくれたんだって安堵するわけですよ。ただビックリするのは、その「ペガサスの朝」の前がWinkの「淋しい熱帯魚」だったり。80年代も最後、‘89年の♪Heart on waveですからね。さらに「約束」の渡辺徹がバトンを渡す相手が「ダンシング・ヒーロー」の荻野目ちゃんだったりするわけですよ。もうビックリですよ(笑)。予想を遥かに超えながら見事な繋ぎと並びになって仮ミックスという形で僕の元に30曲が戻ってくるんです。ありがたいごとに僕が最初のリスナーですからもう感動しちゃうわけですよ。『TSU-TSU MIX 歌姫』(2017年)『TSU-TSU MIX 南沙織』(2017年)もプロのお仕事でしたね。お見事です。

TSU-TSU MIX 歌姫TSU-TSU MIX 歌姫TSU-TSU MIX 南沙織TSU-TSU MIX 南沙織

―― あ、今回の仮ミックスはちょっと……って戻したことはないのですか。

後藤    それはいちどもないですね。僕の場合、やって欲しいことと、やって欲しくないことが打ち合わせの段階で明確だからだと思います。でもたぶん、僕の予想ですけど全部繋げてもらってから「やっぱりこの曲をもっと前半にしてください!」って言った瞬間、みつぐさんは全曲バラしてもういちど最初の行程からやり直すような気がするんです。

松本    はい。迷わずバラしますね。

後藤    だから1曲でも、やり直しになっちゃうなら自分のプレゼン力が足りなかったと責めるしかない。でも幸運なことに一度のその場面が来ないのは、みつぐさんがいつも最高の状態で納品してくれるからなんですよ。えー!?……「淋しい熱帯魚」から「ペガサスの朝」って……さっきも言いましたね(笑)。

―― 曲と曲を繋ぐ場所の悩みもありませんか?

松本    もちろん悩みます。さっき後藤さんが説明したように使用時のルールがあるので、DJが大方好きなプシューという音も入れられないし(笑)。大事なのは全30曲を眺めている時間ですね。だから「許諾待ちでいま28曲です!進めてください!!」って言われても手をつけません。〆切が迫っていたとしても意味がないですよね。

後藤    僕は進捗も共有してほしいから「いまこんな状況です!」って、まめに情報を送るんですけど、ぴくりとも返ってこない(笑)。

松本    メールはちゃんと見てますよ(笑)。

後藤    それがプロとアマの違いなんしょうね。イントロにパーンっていうのは僕でも探せるけど、この曲はここでもう終了!っていう決断が難しい。僕もこの曲はここをアタマにするんだろうなぁまではイメージできても、ここで次の曲にスイッチかな、というオシリが本当に見つけられない。

── これはやはり経験値ですか?

松本    どうなんでしょうね。どの曲も特長を探りながら聴いているっていうのは正直ありますよね。

後藤    僕も何度かお店で見せてもらいましたけど。みつぐさんは何十年も現場でお客さんの反応を見ながら踊らせてきた現役フロアDJですなんです。その場でのオーディエンスの反応がないノンストップDJミックスCDの編集はもはや違うベクトルで尊敬の作業ですね。

── CDリスナーを想定しながらの作業ということになる思うのですが、あらかじめ決めておいた時間のなかでの起承転結というイメージでしょうか。

松本    というよりも、全体で1曲なんですよ。ピンク・フロイドみたいなもんですよね……ちょっと違うか(笑)。初めのころは平均2分×30曲=60分が基準かなぁと思っていたのですが、平均90秒で繋いでいくほうが気持ちいいことに気がついたんですよね。そうしたら今回は平均1.5分×30曲=46分という数字が出てきたんです。

後藤達也(制作担当)&松本みつぐ(DJ)

「46分」は偶然かもしれませんが、曲の変わる瞬間の高揚感を存分に楽しんでいただきたいですね!(後藤)
ノンストップDJミックスはその高揚感とグルーヴ感が止まらないことですから(松本)

後藤    「46分」は偶然かもしれませんが、80s世代に向けた必然の数字だったのかもしれませんね。あの時代のヒット曲はフル尺で聴きたいっていう人には確かに短い再生時間だと思うんですけど、でも、いままでにない別の楽しみ方が提供できたと思っていますね。フル尺は別の手段で楽しんでいただき、ノンストップDJミックスCDでは曲の変わる瞬間の高揚感を存分に楽しんでいただきたいですね!

松本    僕もそこは今回もこだわった部分なので楽しんで欲しいですね。もうひとつ大事にしたのは「46分」グルーヴ感の持続なんです。それは僕が今まで現場のフロアでやってきたこととじつは変わらないんです。ノンストップは音楽が単純に止まらないことですけど、ノンストップDJミックスは高揚感とグルーヴ感を止めないことですから。『オールスター80’sノンストップ・ベスト』はそのことを発揮できた1枚になりました。多くのリスナーの方に楽しんでもらえたら嬉しいです!

対談収録:2017年7月12日・都内某所

文・写真/安川達也(otonano編集部)

*松本みつぐさんは、2017年7月21日に逝去されました。スタッフ一同、心よりご冥福をお祈りいたします。

松本みつぐ(DJ)

松本みつぐ(まつもと・みつぐ)

DJ

1974年に新宿歌舞伎町のディスコでDJをはじめる。以来、クレイジー・ホース、チェスター・バリー、ニューヨーク・ニューヨーク、六本木ではボビーマギーなどのディスコでDJを務める 。80年代に入り、 ニューヨーク・ニューヨークを継続しながら六本木ザ・リージェンシーもDJ兼務。’97年、新宿ゼノン でのDJを最後にフリーDJ活動入り、現在も現役DJとして活動中。80年代以降はゲストDJとして、 都内のGOLD、マハラジャ、キング&クィーン、Jトリップバー、AGEHAなどのクラブ・ディスコ をはじめ、札幌、仙台、金沢、名古屋、京都、大阪、福岡、鹿児島など全国各都市のクラブ・ディスコに も参加。ダンス系音楽プロデューサーとしても活動、TM Revolution、Wink、藤井隆、Every Little Thingなどの楽曲 リミックスを手掛ける。ダンス系アーティストのCD解説、ディスコ系CDの監修、ノンストップミックス CDのプロデュースなど数多くのCD企画制作をアシスト。テレビ、ラジオのディスコ及びダンス系番組 にも出演するなど幅広く活動。
2017年7月21日、死去。

後藤達也(制作担当)

後藤達也(ごとう・たつや)

株式会社ソニー・ミュージックダイレクト
ストラテジック制作グループ 制作2部 チーフプロデューサー

1989年、CBS・ソニーグループ(現Sony Music)入社。営業、宣伝を経て、2003年よりコンピレーションCD制作を担当。洋楽では『MAX』『WOMAN』、邦楽では『クライマックス』『歌姫』『オールスター』等のシリーズ物を主に手がける。

オールスター80’sノンストップ・ベスト
2017年8月2日発売
品番:MHCL 2698
価格:¥2,000+税
全30曲オリジナル音源J-POPノンストップDJミックス 歌詞付き
*このCDはオリジナル音源を1~2コーラスずつノンストップDJミックスしておりフルヴァージョンでは収録していません。
ご購入はこちらから
Sony Music Shop

オールスター80’sノンストップ・ベストTOPへもどる

Go to top