落語 みちの駅

第百二十九回 「第224回 朝日名人会 レポート」
 秋晴れの11月19日14時から有楽町マリオンの朝日ホールで第224回朝日名人会が開かれました。コロナ禍のために少し窮屈なことが多かった三年間でしたが、その日は「大入袋」が復活する満員の盛況でした。それを見込んで演者もネタも吟味をしたつもりなので、この日の盛況はありがたい結果でした。

 前座・春風亭いっ休「金明竹」の上方弁の口上に中手(口演中の拍手)がかかったのは、コロナや世相に心まで敗けはしない、そんな気持ちの表れではなかったか、と思うのです。

 さて二ツ目は柳亭市童さんの「天災」。古典落語の名作でありながら長いこと名作の“穏やかさ”に甘んじてきた「天災」。先進国なのに災害が始終絶えないこの国の皮肉な実相を演者は巧まずに演じました。ギャグを導入してウケるよりも素直に天災問答で笑いを取っていました。

 古今亭菊之丞「二番煎じ」。もともと達者な人でしたが、近頃はテンポが安定し、人物や事態の表し方に一段と幅が出てきました。大勢の人物が現れる「二番煎じ」をこなせるようになりましたから前途が楽しみです。

 五街道雲助「干物箱」。この噺にはいろいろな攻め方があって、老父にポイントを置くか、または本屋の善公にするかで大きな違いがあります。まあ若旦那はせいぜいストーリーの運び屋。雲助「干物箱」は三人ともそれほど個性の強い仕上げにせず静かに夜を更けさせてくれました。大真打の滑稽噺です。

 柳家さん喬「芝浜」。これは名演でした。かの立川談志さんでもこの名作への思いを素直に認めたほどです。ヘタをすると噺に溺れて水死しかねない、こわい噺だと思います。さん喬さんはバランスよく全体を整え、しかし噺の核心に迫って、さらに人情噺の感傷に溺れることはなかったのです。

第百二十九回 「第224回 朝日名人会 レポート」
柳亭市童「天災」


第百二十九回 「第224回 朝日名人会 レポート」
古今亭菊之丞「二番煎じ」


第百二十九回 「第224回 朝日名人会 レポート」
五街道雲助「干物箱」



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著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。