落語 みちの駅

第百二十四回 「第219回 朝日名人会 レポート」
 2022年5月21日午後2時から朝日名人会第219回公演を行いました。コロナ騒動も少し落ち着きをみせて、満員とまではいかなかったものの、にぎわい定着の趣きが戻ってきました。俄か雨模様の不安定な天候でしたが、演者全員力一杯の熱演でした。

 二ツ目は一朝門下の春風亭朝之助さん「だくだく」。朝之助さんはおもしろい持ち味が身に付き始めた有望な若手です。ただ型通り突っ走るようなことはありません。主人公と絵かきの隠居の対話に不自然感がなく、落語らしい落語を聴けた満足感がありました。これは大切なことで、この古風な噺に今風のギャグを追加したがる先輩はいずれ追い越されるかもしれません。

 桃月庵白酒さんの「干物箱」。早くも若手でありながらベテランの格を持つに至った白酒さんあたりになれば、世相談もギャグも本題も一体となってワクワクする高座ぶりに展開します。楽しい口演でした。

 中入り前は入船亭扇遊さんの「ねずみ」。名工・左甚五郎の人間表現は噺によって異なる――、つまり「竹の水仙」と「ねずみ」では別人の観があるのはおもしろいことで、「ねずみ」の甚五郎はただの変わり者ではありません。気の毒なねずみ屋父子の救世主です。その性格をキメこまかく演じ上げて、この日の公演の中核の役をしっかり勤めてくれました。

 トリの長講は柳家権太楼さんの「鼠穴」。故・六代目三遊亭圓生の緻密にして劇的なお手本にあるところは逆らい、あるところは敬服しながら一時間近く堂々の横綱相撲で演じ通してくれました。少し身体をこわしたというのが信じられない名口演、というよりは大口演。まだまだ後輩にヒケはとらない高座ぶりでした。

第百二十四回 「第219回 朝日名人会 レポート」
春風亭朝之助「だくだく」


第百二十四回 「第219回 朝日名人会 レポート」
桃月庵白酒「干物箱」


第百二十四回 「第219回 朝日名人会 レポート」
入船亭扇遊「ねずみ」



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著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。