落語 みちの駅

第百二十三回 「第二一八回 朝日名人会 レポート」
 第二一八回朝日名人会が四月十六日(土)午後二時から有楽町朝日ホールで開催されました。

 コロナ禍のさまざまな制約が少し解けて、約二年ぶりに満員御礼の会になりました。トリの志の輔さんが客席を見渡しながら、よかった、こうでなくては、と心からの感想を述べていたのが身にしみました。

 まだ油断は大敵、なお多少の曲折はあるでしょうが、再び落語の春が来ることを信じましょう。

 前座・春風亭いっ休さんのあと二ツ目・古今亭志ん松さん「崇徳院」。真打は柳家三之助さん「笠碁」、橘家圓太郎さん「百川」、そして中入り後に立川志の輔さん「八五郎出世」。終演は午後五時十分、いつもながらのたっぷり口演でした。

 真打昇進も近い志ん松さんの「崇徳院」は花見時分にはぴったりの演目。朗らかに運んでくれました。熊さんと衰弱した若旦那の対照をさらにリズミカルにすれば、一段と高座ぶりが上がるでしょう。

 柳家三之助さん「笠碁」は結構な一席でした。もともと基本のたしかな人なので、いよいよ飛躍の時期にはいったのか、とうれしく聴きました。碁敵同志を小さな空間に押し込めた噺ですから、売れっ子の噺家でも地力のない人には頼めない噺です。しばらくは三之助さんから目が離せません。

 橘家圓太郎さんの「百川」も期待して依頼した「百川」を期待以上の落ち着いた高座ぶりで演じ上げてくれました。もともとがよく作られた噺、いわば大真打の登竜門です。

 キャラクターが大勢登場して、しかも極端に異なるキャラクターが絡み合う噺なので、不自然になることも多い噺です。

 近頃すっかり高座ぶりが整って大器ぶりさえ感じさせる圓太郎版「百川」は、今後ますます楽しみです。

 立川志の輔さん「八五郎出世」。とくに前半ではプロットをあまりいじらず、八五郎が妹や殿様と会ってからは、すべての登場人物をそれぞれなりにヒューマニストに仕立て上げて、噺は人間讃歌となってフィナーレを描き出しました。

 志の輔さんの八五郎は出世を拒みましたがヒューマニズム落語「八五郎出世」は、そうあるべきなのです。

第百二十三回 「第二一八回 朝日名人会 レポート」
古今亭志ん松「崇徳院」


第百二十三回 「第二一八回 朝日名人会 レポート」
柳家三之助「笠碁」


第百二十三回 「第二一八回 朝日名人会 レポート」
橘家圓太郎「百川」



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著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。