落語 みちの駅

第百二十回 「第215回 朝日名人会 レポート」
 第215回朝日名人会は2021年12月18日14時から有楽町(マリオン)朝日ホールで開催されました。コロナ禍の体制を解くわけにもいかず、まだ客席を三割方減らしての公演です。

 春風亭朝枝「湯屋番」、桂三木助「へっつい幽霊」、桃月庵白酒「富久」、中入り後は林家正蔵「おせつ徳三郎〈全〉」。終演17時12分。

 かつてほど人気のある演目ではない「湯屋番」ですが、声音や語り口に昔の――大正期の噺家に通うところがある朝枝さん独特の個性で噺が生き返ったように思われます。

 祖父・三代目ゆずりの桂三木助「へっつい幽霊」は幽霊が出ても驚かない主人公の熊さんの線がまだ細いものの、噺の運びはシャッキリとしていました。祖父・三代目は上方者の客に怪異を語らせたものでしたが、上方暮らしの経験がない当代三木助さんが上方者を省いていたのは賢明でした。

 中入り前は桃月庵白酒「富久」。本日もっともパワフルでドラマ豊富な口演でした。最初の火事場をあまり遠方にしなかったのも賢明で、現代の聴き手が自然に受け入れられる江戸マップになりました。主人公の喜怒哀楽も程よく、しかもドラマティックで大いに結構。

 林家正蔵「おせつ徳三郎<全>」は五十分の長演。「花見小僧」と「刀屋」の通しです。噺の性格が異なる二席を柔らかく包んで聴かせてくれました。終始バランスのいい長演です。

「花見小僧」はふつう子どもをはしゃいだ小僧に固めがちですが、今回の口演では旦那と番頭に比重を置いていて、それが後半の「刀屋」の老主人に自然につながったようで、これはこの長い噺を生かす納得の模範口演となったようです。

第百二十回 「第215回 朝日名人会 レポート」
春風亭朝枝「湯屋番」


第百二十回 「第215回 朝日名人会 レポート」
桂三木助「へっつい幽霊」


第百二十回 「第215回 朝日名人会 レポート」
桃月庵白酒「富久」



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著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。