落語 みちの駅

第百十五回 「第210回朝日名人会報告」
 6月19日PM2:00より開演。5月15日の前会が当局の深夜の対策発表劇に踊らされて思わぬ中止を余儀なくされ、今回は腹立ち紛れの対応をとっていましたが客席は明らかに戻ってきて、会場ロビーもにぎわいを取り戻したように思います。これでなくてはいけません。

 重鎮・五街道雲助の長講に加えて柳家三三、桃月庵白酒が競い、二ツ目は真打昇進も遠くはない柳家さん光という顔ぶれであればコロナもヘチマもあるものか、であります。

 さん光「熊の皮」。サゲがハッと口の端に上る、その呼吸が絶妙です。アンケートでも真打諸師に劣らない票を集めました。20分。

 白酒「宿屋の富」。40分弱。持ち前のパワーにくわえて細かい味が出て来ました。聴きなれた名作に風格が増して、ますますこれからが楽しみです。

 三三「素人鰻」35分。もと武士が2人登場するこの噺のニンにかなっています。維新直後の江戸市井談の趣もありました。金蔵の連夜の失敗を描くコーナーにはもう少し工夫がほしいところ。

 雲助「猫定」45分。定さんが無言の猫に語りかけるモノローグでサイの目を語る、あの場面は話芸の好きな人にはたまらない味です。私たちはこの噺を六代目圓生で楽しんだものですが、雲助さんの声音はそれ以上にこの噺に向いたさびがあると言っていいでしょう。

第百十五回 「第210回朝日名人会報告」
柳家さん光「熊の皮」


第百十五回 「第210回朝日名人会報告」
桃月庵白酒「宿屋の富」


第百十五回 「第210回朝日名人会報告」
柳家三三「素人鰻」

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。