気になる洋楽~すっきり解消!あのCMで使われていた曲は?~

70s~90sのCM洋楽ヒストリーを紐解く短期連載をお届けします。

VOL.5(最終回)●ジャミロクワイとCMの旅に出よう!?

VOL.5(最終回)●ジャミロクワイとCMの旅に出よう!?

 「マイケル・ジャクソン、ビートルズの楽曲の出版権を獲得!」というニュースが音楽業界ならず世間を騒がしたのは’85年8月のことだった。『スリラー』の大成功でKING OF POPとなったマイケルは約82億円で「ラヴ・ミー・ドゥ」など初期4曲を除く’71年までのビートルズ関係の楽曲を手にいれたのだ。そのニュースに最も影響を受けたのはCM業界だった。それまではビートルズ楽曲に関してCMなどの使用はとても厳しかったのだ。マイケルが出版権を獲得以降少なからず緩和されビートルズ曲がブラウン管に登場するようになる。三菱<ファインスクエア>の「アイ・フィール・ファイン」、日産<トラッドサニー>の「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」「ユー・ネヴァー・ギヴ・ミー・ユア・マネー」「オー・ダーリン」……。そしてあらたなルールとしてCMなどの原曲使用はOK!だが、カヴァーはNGということだった。それまではその逆が許されることもあったのだが、マイケル・サイドによればCMでの原曲使用は大金になるけれどカヴァーは……ということだったのだろうか。

 そんなビッグな洋楽ニュースを横目に、テレビCMに相も変わらずヒット曲や著名人を起用しない我が道を進むIt’s a Sony(’82年~’00年のソニーTVコマーシャルのサウンドロゴ)。’87年、音楽好き若者の必需品となっていたウォークマンのWM-501シリーズではニホンザルのチョロ松を起用。霧が立ち込める湖のほとりに2本足で直立不動。耳にはイヤホン、手にはウォークマンを握り目を閉じるチョロ松。「音が進化した。人はどうですか」のキャッチコピーは強烈なインパクトを放ち、商品も大ヒット(筆者愛器)。

 そんなソニーが心機一転だろうか、同年、満を持して人気絶頂のREBECCAを主力商品となっていたミニコンポ“リバティ”のCMに起用。怒涛のCM大量投下のなか「レベッカはリバティの中にいる」というソニー×人気ミュージシャンのCM解禁とも言うべき大号令が街中に響き渡る……。





MARIAH CAREY「Hero」Official Video(1993)


 90年代に入るとソニーは新世代再生システムMDを発表。CMにはソニーミュージックグループが誇る世界的歌姫を起用。「マライア・キャリーはミニディスクを信じている」。キャッチ・コピーと交錯する彼女の代名詞となった名唱「ヒーロー」のミュージックビデオ映像。マライアの3rdアルバム『ミュージック・ボックス』は日本国内だけで当時160万枚のメガセールスを記録し、マイケル・ジャクソン『スリラー』を超えて洋楽オリジナル・アルバム歴代セールスNo.1に輝いた(’95年マライア4th『デイドリーム』が200万枚突破し自己記録更新)。

 ソニーはMD市場のさらなる拡大を求めて’96年、テレビCMに90年代の洋楽シーンを変えた男ジェイ・ケイ=ジャミロクワイ本人を起用。’92年、1枚のシングル「ウェン・ユー・ゴナ・ラーン」で世界中の音楽ファンに衝撃を与え、1stアルバム『ジャミロクワイ』(’93年)、2ndアルバム『スペース・カウボーイの逆襲』(’94年)で追随を許さないアシッド・ジャズ/ファンクの雄に躍り出たジャミロクワイ。その頂点を極めることとなった3rdアルバム『トラヴェリング・ウィズアウト・ムーヴィング~ジャミロクワイと旅に出よう』(’96年)のリード・シングル「ヴァーチャル・インサニティ」がMDウォークマン初号機のテレビCMで使われた。





JAMIROQUAI「Virtual Insanity」Official Video(1996)


 MTVビデオ・ミュージック・アワードで4冠に輝くジョナサン・クレイザー監督による有名な動く床の上で歌う(実際には周りの壁が動いている特撮)ミュージックビデオを彷彿させる軽快に飛び跳ねるジェイ・ケイ。「MDウォークマン、デビュー!」のSPOTコピーと♪Futures made of virtual insanity now(未来は得体の知れない狂気で作られているんだから)の歌声は完全にマッチ。それまで音楽ファンだけに知られていたジャミロクワイは一気にお茶の間レベルに引き上げられ、アルバム『トラヴェリング・ウィズアウト・ムーヴィング』は150万枚のセールス突破、MDウォークマンも20世紀最後のFutureな逸品として若者に支持され大ヒット商品となった(2008年生産終了)。


VOL.5(最終回)●ジャミロクワイとCMの旅に出よう!?

▲ジャミロクワイ
『トラヴェリング・ウィズアウト・ムーヴィング~ジャミロクワイと旅に出よう』
(1996年)
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 ジャミロクワイの「ヴァーチャル・インサニティ」のCMヒストリーは20世紀では終わらなかった。2010年4月、日清<カップヌードル>が「この味は、世界にひとつ」シリーズをスタート。音楽×カップヌードルがテーマ。有名曲をカップヌードルをテーマにした替え歌に置き換えるCMシリーズ。元となる曲の見慣れたミュージックビデオの映像をそのまま使用し、歌詞を替えた部分はCGを駆使して口の動きを歌詞に合わせる画期的な内容だった。90年代を代表する1曲として選ばれたジャミロクワイ「ヴァーチャル・インサニティ」編では当然あの床が動く映像が登場。

 耳馴染みの♪Futures~サビの部分が ♪ハラ減った、カップヌードルいつ食べられるの? ほかのじゃいやよ~、カップヌードルがいいよ~に当てられた。日本だから実現したCM洋楽史の最高傑作として今でも動画サイトでのアクセスが絶えないようだ(大人の事情でここでは掲載できません)。さらに「ヴァーチャル・インサニティ」は、2017年、TOYOTA<カローラ フィールダー>のテレビCMにも再々登場。すっかり中年になったジャミロクワイ世代を狙い撃ちにしたが、今でも「ヴァーチャル・インサニティ」を聴くと、♪腹減った~と変換してしまうリスナーがいるらしい。これぞCMで使用された音楽の恐るべき刷り込みパワー。♪Futures made of virtual insanity now~(未来は得体の知れない狂気で作られているんだから~)。[終わり]

文/安川達也(otonano編集部)


<気になる追伸>
ジャミロクワイの楽曲が初めて一般メディアに登場したのは伝説の子供番組『ウゴウゴルーガ』(フジテレビ系|’92年10月~’94年3月)と言われている。後期のエンディング・テーマ曲として「The Kids」が起用。番組のなかでベレー帽をかぶりいつも手にパレットと絵筆を持ったフランス画家風の人気キャラクター、シュールくんの声を演じていたのは昼間徹史氏(当時フジテレビ社員)。いま、僕らの上司であり、otonano運営責任者であり、ソニー・ミュージックダイレクトプロモーション部の長、その人。ステキなミドルだが確かに声は今でもシュールくん。当時、20代だった昼間氏は番組終了と共に退社ししばらく自分探しの世界旅に出たようだ。音楽のお供として“ジャミロクワイと旅に出よう!”と言ったがどうかは不明。(安川達也)



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