気になる洋楽~すっきり解消!あのCMで使われていた曲は?~

70s~90sのCM洋楽ヒストリーを紐解く短期連載をお届けします。

VOL.3●見晴らしいいよ、ウキウキ、ワム!

VOL.3●見晴らしいいよ、ウキウキ、ワム!
写真提供/マクセルホールディングス株式会社

全英No.1アイドル・ポップ・デュオ、お茶の間デビュー!

 ’82年、スズキのスクーター<ラブ>がマイケル・ジャクソンとタッグを組み「今夜はドント・ストップ」「オフ・ザ・ウォール」をブラウン管からお茶の間に大量投下。商品と楽曲を大ヒットさせた成功例は80年半ばに差し掛かるころには、CM発の「洋楽アイドル」を生み出すまでに発展を遂げようとしていた。マイケルの『スリラー』(’82年)が空前のロングセラーとなった’84年、ジョージ・マイケル&アンドリュー・リッジリー=ワム!が日本独自の洋楽アーティスト出演CMラインに乗ったのだ。全英No.1アイドル・ポップ・デュオの日本での事実上のお茶の間デビューだった。

 MTVムーヴメントに乗って’82~’83年にデュラン・デュラン、カルチャー・クラブらがアメリカで大成功を収めた現象は、60年代にイギリスから大挙北米大陸に押し寄せたビートルズ、ストーンズ以来の「第2次ブリティッシュインヴェイジョン」ともてはやされ、文字通り多くのスターがブラウン管から生まれた。80年代を回顧する記述にワム!を第2次ブリティッシュインヴェイジョンと一緒くたにしていることを見受けられるが、ワム!はこの大波には乗っていなかった。もっと正しく言えば“少し乗り遅れた”のだ。しかし、このことはワム!にとってはFANTASTICなことになる。


VOL.3●見晴らしいいよ、ウキウキ、ワム!

 ‘82年~83年、本国イギリスではワム!は「ヤング・ガンズ」(3位)、「ワム・ラップ!」(8位)、「バッド・ボーイズ」(2位)、「クラブ・トロピカーナ」(4位)とヒットチャートを驀進し、アルバム『ファンタスティック』はイギリスでは史上4組目となるデビュー作初登場1位に輝いていたが、アメリカではこの時点では全くと言っていいほどヒットしていなかった。正確には戦略なのだが、第2次ブリティッシュインヴェイジョン後発デビュー組としての時差、MV製作への低投資、前レーベルとの裁判を経たEPICレコード移籍前などの状況とも無縁ではないが、北米大陸はまだワム!を受け入れる準備が出来ていなかったというほうが適当かもしれない。一方、日本では意外な形でそのウェイヴが届いていた。





WHAM!「Bad Boy」Official Video(1982)


空飛ぶワム!見晴らしいいよ、ハイポジション。

 ウォークマン、貸しレコ、エアチェック、FM雑誌全盛の80年代半ば、若者の必需品となっていたカセットテープ。人気のソニー、TDK商品を横目に、山下達郎「RIDE ON TIME」(’80年)、THE MODS「激しい雨が」(’83年)など邦楽ミュージシャンをCM起用する独自展開をしていた日立マクセルの代名詞となっていたカセットテープ「UD」シリーズが’84年に突如方向転換。

 軽快な洋楽「バッド・ボーイズ」が流れるなか、スローモーションで浮かびながら(ピアノ線で吊られながら)ジョージ&アンドリューのハイタッチ! 飛び切りの笑顔を振りまいた空飛ぶワム!のキャッチコピーは、見晴らしいいよ、ハイポジション。キャッチーなCMインパクトは絶大で、一躍ワム!はお茶の間の人気洋楽アイドルの仲間入りを果たした。’83年12月、初プロモーション来日時の撮影だが、言われるがまま低空飛行のスーパーマンになりきっているアンドリューに対して、少しビビっているのか動きが硬いジョージ・マイケルが微笑ましい。


VOL.3●見晴らしいいよ、ウキウキ、ワム!

 時代の追い風に乗るかのように、’84年8月、ジョージ・マイケル名義で発売された「ケアレス・ウィスパー」が全英シングルチャートのトップに輝き、その日本語カヴァー「抱きしめてジルバ」(西城秀樹)、「ケアレス・ウィスパー」(郷ひろみ)も日本で大ヒット。日本ではワム!名義で発売されたオリジナル・ヴァージョンは10月29日付からオリコン洋楽チャートで4週連続1位を記録。さらに、12月にはジョージ・マイケルがリード・ヴォーカル参加したBAND AIDの「ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス?」とワム!の「ラスト・クリスマス」が12月度の全英チャートの1,2フィニッシュを飾った。この年から日本でもクリスマスになるとジョージ・マイケルの歌声が聴こえてくるようになる。

 2ndアルバム『メイク・イット・ビッグ』からは「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」(’84年11月1位)「ケアレス・ウィスパー」(’85年2月1位/年間1位)「恋のかけひき」(’85年5月1位)3曲連続全米1位に輝き’85年のアメリカでは遅れてきた“ワム!インヴェイジョン”が巻き起こっていた。日本でも『メイク・イット・ビッグ』は、松田聖子のベスト『Seiko-Town』を抜き’84年12月3日付オリコン総合アルバムチャートで堂々1位を獲得。今では伝説になっている『メイク・イット・ビッグ』ワールドツアーも翌’85年1月に日本からスタートしている。





WHAM!「Freedom」Official Video(1985)



CM「フリーダム」の歌詞は日本オリジナル!?

 ワム!現象をダメ押すかのようにマクセルのカセットテープ「UD」シリーズのCMワム!編の第2弾が投下された。今度のキャッチコピーは「えっへん、ハイポジション。」。決めポーズのあとにアンドリューが打点の高いジャンプを魅せるCMはまたもや大人気。使われた曲はすっかり耳馴染みになっていた「フリーダム」。だけど、なぜか一緒に歌えないとワム!ファンがざわつく。

実際の「フリーダム」サビの部分は

I don't want your freedom
I don't need to play around
I don't want nobody baby
Part time love just brings me down

でもジョージとアンドリューのふたりはCMでは、きっとこんなふうに歌っていた。

I can't wait to see you
Why don't you come here no more
People think you're bulgy, baby
You're the fish face I adore
I can't wait to see you





マクセルカセットテープ 「UDⅡ」 ダンシング 「えっへん、ハイポジション」 篇 30秒TV-CM(1984年) 


 ワム!編第2弾で使われた「フリーダム」が日本CMだけに使われたスペシャル・ヴァージョンだということが分かるとレコード会社や日立マクセルに問い合わせが殺到した。SNS皆無時代。情報を求めて欧米のワム!本家ファンもざわつく。「日本向けのメッセージ?」「極東で何が起こっているの??」。ネイティヴなリスナーにも不可解な歌詞だったらしく、長らく謎のままとされていたが、のちにジョージ・マイケル自身が「あれはジョークだった」と公言している。

VOL.3●見晴らしいいよ、ウキウキ、ワム!
写真提供/マクセルホールディングス株式会社

 ‘85年には、当時のイラストレーション技術を駆使したワム!編第3弾CM「耳がサンキュー!といった」編がドロップ。曲はもちろん、あの「フリーダム」の日本CMヴァージョン。ベストセラーとなったワム!の『メイク・イット・ビッグ』をマクセル「UDⅡ」の46分テープで聴くリスナーがすっかり王道ファッションとなったころ、ライバルだったソニーのカセットテープCMも一夜の成功を夢見た巻き返しをはかろうとしていた!? ♪Over Nigh Success !?!? [続く]

文/安川達也(otonano編集部)


VOL.3●見晴らしいいよ、ウキウキ、ワム!

★11月11日発売!
CD+DVD『ワム!ジャパニーズ・シングル・コレクション-グレイテスト・ヒッツ-』
SONY MUSIC


特典映像
①マクセル カセットテープ 「UDII」1984 年
<新登場 ハイビームサウンド篇 30 秒 TV-CM>
②マクセル カセットテープ 「UDII」ダンシング
「えっへん、ハイポジション」 篇 30 秒 TV-CM 1984年
③マクセル カセットテープ「UDI/UDII」 イラスト
「耳がサンキュー!といった」 篇 30 秒 TV-CM 1985年





<気になる追伸>
本稿執筆時にエディ・ヴァン・ヘイレンの訃報が飛び込んできた。カセットテープが擦り切れるほど聴いたアルバム『1984』がアタマのなかで順に流れる。1984、JUMP、PANAMA、TOP JIMMY……A面5曲が16分強、B面4曲も16分強で、ソニー、TDKは収まらなかったけれど、なぜかマクセルの30分テープだとダビング出来たんだよね。マクセルのほうが長い? 真相はよくわからないが、僕のラジカセだとHOUSE OF PAINが終わるとすぐに始まる1984。永遠に続くと思った中2の青春オートリバース。さようならHOTなロックTEACHER。(安川達也)


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