私が欲しいレコード

幻の名盤から架空の一枚まで。今聴きたい、今欲しいレコードを、各界のレコード愛好家のみなさまに、自由な発想で綴っていただきます。

第10回【小西康陽】 音楽家
第10回【小西康陽】 音楽家

「私の欲しいレコード」というとまずは友人たちと楽しい時間を過ごすためのレコード、ということになる。



 この原稿依頼が最初に届いたのは、ことし(2020年)の3月。それから状況はすっかり変わった。この4月からDJをしたのは2回のみ、それも無観客でのプレイだった。

 じぶんはいままで「DJ生活○○周年」といったイヴェントを催したことはないけれども、たぶんことしでDJをするようになってからちょうど30年目。その30年の間、毎月すくなくとも2回、多いときは7、8回のDJを入れていたこともあるので、その数は優に1000回を超えているはずだ。

 そんなにたくさんDJしているのに、どうしてうまくならないの? という質問には答えることができないが、どうして飽きもせずに続けているの? という問いには即答する。好きなレコード、みんなに聴かせたいレコード、みんなと楽しみたい音楽に次々と出会ってしまうから。そして好きな音楽を一緒に分かち合いたい友人たちにクラブでは会えるから。

 だから「私の欲しいレコード」というとまずは友人たちと楽しい時間を過ごすためのレコード、ということになる。

 もちろん、じぶんはひとりの時間に楽しむ音楽というのも大切にしているが、そうした音楽で惹かれるものは、ほとんどがCDが出現する以前にレコードとして発表されていて、まだまだ聴いたことのないものが数限りなく存在しているから、CDやデータでのみ発表された作品でレコードにして欲しい作品というのは、あまり思いつかない。2010年に発表された安藤明子さんの『オレンジ色のスカート』というアルバム。bice(ビーチェ)のファースト・アルバム『Nectar』。そしてじぶんの関わった作品ならば『うたとギター。ピアノ。ことば。』すぐに思い出すのはそんなところか。『うたとギター。』に関しては、一度だけアナログ化の話があったけれども、それはいまだに実現していない。




安藤明子
『オレンジ色のスカート』
(2010)


bice
『Nectar』
(2001)


『うたとギター。ピアノ。ことば。』
(2008)
詳細はこちら


 いっぽうDJで使うためのレコード、ということなら、とても指定の文字数では足りぬほど挙げることができる。とくに、かつてはLPや12インチでしか発表されなかった楽曲が7インチとしてリリースされるのはDJとしてうれしい。十代の頃にじぶんの音楽の好みに決定的な影響を与えてくれた作品、たとえば「はっぴいえんど」の『風街ろまん』『HAPPY END』、大瀧詠一さんの『大瀧詠一』『ナイアガラ・ムーン』、細野晴臣さんの『HOSONO HOUSE』『トロピカル・ダンディ』『泰安洋行』、あるいはシュガーベイブの『SONGS』といったアルバムの全曲7インチ化、なんて実現したら、それはもちろん発売日に買うことだろう。

 以前、ソニーGREAT TRACKSの蒔田氏に「アナログ化のご提案」と題したリストを送ったことがあって、この原稿を書くのに読み返してみたところ、なんだかんだと時間は掛かったものの、多くの楽曲のアナログ化、7インチ化がすでに実現していた。ACOの「揺れる体温」まで出るのだから、岡村靖幸さんのアレとか電気グルーヴのアレとか、きっともうすぐなのではないか、と期待している。

 最後にそのリストの中から、もう一度しつこくアナログ化を切望する作品を3枚、挙げておきたい。

 笠井紀美子『窓を横切る雲/四つの季節』。これは復刻の始まったアルファの音源でぜひ7インチ化してほしい作品。鈴木蘭々『キミとボク』。東京の小バコで活動するDJならば、誰もが7インチでプレイしたいと思う楽曲。そして最後の一枚は南沙織『美しい誤解』。誰よりも好きだった歌手の、最高に素晴らしい楽曲。B面はカラオケを発掘していただきたい。




笠井紀美子
『アンブレラ』
(1972)
※「窓を横切る雲」「四つの季節」収録
詳細はこちら


鈴木蘭々
『キミとボク』
(1998)


南沙織
『ヤングのテーマ 20才まえ』
(1973)
※「美しい誤解」収録
配信はこちら


 こう書いていて、いちばん気になるのは、はたしてこれらの楽曲のアナログ化、7インチ化が晴れて実現したとして、じぶんはそのときまだDJをしているだろうか、ということ。待望のレコードを手にしながら、すでにじぶんはDJの現場から退いていて、かつての楽しいパーティーのことを思い出している。そんな光景をこの何ヶ月か、たびたび頭の中でイメージしている。







●小西康陽(こにしやすはる)

音楽家。'85年、ピチカート・ファイヴのメンバーとしてデビュー。解散後も、数多くのアーティストの作詞/作曲/編曲/プロデュースを手掛ける。'11年、PIZZICATO ONE名義で初のソロアルバム『11のとても悲しい歌』を発表。'15年、セカンドアルバム『わたくしの二十世紀』を発表。昨年行われたワンマンライヴの模様を収録したCD『前夜 ピチカート・ワン・イン・パースン』が発売中。アナログ盤は【2020年レコード・ストア・デイ限定商品】 として9月26日にリリースされる。

readymade-shopping.stores.jp



前夜 ピチカート・ワン・イン・パースン
PIZZICATO ONE

ユニバーサルミュージック
SHM-CD(2020年6月27日発売)
アナログLP(2020年9月26日発売)



GREAT TRACKS Order Made Vinyl 公式サイト

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