落語 みちの駅

第百七回 「1月の朝日名人会レポート」
 1月18日(土)PM2:00開演の朝日名人会。今回は196回で、6月には200回を迎えます。

 前座は春風亭朝七さん。二ツ目昇進を控えて、この日がこの会での前座卒業に当たります。「猫と金魚」とは前座離れ宣言の演目とも思われます。すでに練れたところのある朝七さん。前座離れは大いに結構ですが、どうか自分の殻で武装することだけはないように。

 二ツ目の柳亭市江さんは「熊の皮」。大勢の客に少しアテられた感じはありましたが、甚兵衛夫婦と医者のトライアングルは的確に描かれていました。

 春風亭一之輔さんは「初天神」。シーズンネタではありますが、おそらく当日最大の笑いをとる高座であろう――、とは会場全体の思うところ。しっかり会場の空気を作ってくれました。次の高座が柳家さん喬さんの「牡丹燈籠(一)」であるだけに一之輔さんの“功績”が光りました。

「牡丹燈籠」は来春までに4回に分けて口演されます。正式な演題は「怪談牡丹燈籠」でしょうが、「仇討ストーリー」と「怪談ストーリー」との量的な比率は65:35というところ。「怪談」は棚に上げました。

 といっても深い考えがあるわけではなく、この噺の生命の第一が新三郎・伴蔵主従の幽霊とのかかわりにあることは承知の上です。

 中入り後は「落語」モードに戻って、正蔵さんの「紋三郎稲荷」。正蔵さんはじっくりほのぼのと民話風の世界へ誘ってくれました。力んでやってはならない、まさに落語ここにありのひとときでした。

 トリは五街道雲助さん。「二番煎じ」。登場人物のほとんどが熟年層という珍しい噺で、これほど演者の貫禄を要する噺も他にないでしょう。

 雲助さんは火の回りの班を二つにしたりしない型です。どういうわけか二班にする演者ばかりになってしまいましたが、あれでは小さな火の番小屋のイメージが出ないのではないかと思います。メンバーひとりひとりの役割が明確で無理のない、老練の二番煎じでした。




第百七回 「1月の朝日名人会レポート」
柳亭市江「熊の皮」


第百七回 「1月の朝日名人会レポート」
春風亭一之輔「熊の皮」


第百七回 「1月の朝日名人会レポート」
柳家さん喬「牡丹燈籠(一)」


第百七回 「1月の朝日名人会レポート」
林家正蔵「紋三郎稲荷」

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。