落語 みちの駅

第百一回 「第190回朝日名人会のこと」
 朝日名人会も190回を迎えました。99年2月スタートの朝日名人会は当初の短期間、年6回制でしたが、すぐに年10回に固定して今日に至りました。この日は、柳亭市楽「御血脈」三笑亭夢丸「徳ちゃん」橘家圓太郎「猫の災難」入船亭扇遊「一分茶番」桂文珍「天神山」。

 お客様からのアンケートに若手が熱演でよかったとの声がかなりありました。市楽さんも夢丸さんも芸柄が大きく勢いがあって客席からの反応にもパワーが感じられました。朝日名人会のお客には若手を暖かく見守る習性が身についてきていて結構なことです。「徳ちゃん」はホール落語向きのネタではないけれど、いやみなく明朗に演じて演者が噺に市民権を与えた観があります。

「猫の災難」は柳家系でない演者で聴くのは久しぶり。楷書の芸が酔態の崩れをどう表すか楽しみでした。結果は成功。あまりくどくせず、猫退治のリハーサルのくだりもコンパクトで楽しめました。

 扇遊さんは十八番の「一分茶番」で余裕たっぷりの口演。篤実な芸風の人が素人芝居のドタバタを軽やかに展開していくうちに、洒落や滑稽がさりげなく市井を満たしていた時代にタイムスリップしていくのを感じました。

 はめものが大活躍する上方の大ネタ「天神山」は誠に結構と申し上げる他ありません。ただし「葛の葉」の神秘にあまり深入りせず、サラッとまとめてくれました。長屋の清やんと喜公が狐の正体を見破るくだり、狐が呪いのことばを吐くくだり、そして「コン」と「来ん」の駄洒落のサゲも改良してメルヘン風な地語りで噺を締めくくったのでした。




第百一回 「第190回朝日名人会のこと」
柳亭市楽「御血脈」


第百一回 「第190回朝日名人会のこと」
三笑亭夢丸「徳ちゃん」


第百一回 「第190回朝日名人会のこと」
橘家圓太郎「猫の災難」


第百一回 「第190回朝日名人会のこと」
入船亭扇遊「一分茶番」

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。