上領 亘上領 亘

Prayer

テクノ民謡ユニット、NeoBalladで活動中のドラマー/プロデューサー上領亘 待望のソロ作品。

上領 亘『Prayer』

ミニアルバム『Prayer』
1. 鶴 ~2019 Ver.~
2. Geronimo
3. Prayer
4. Night Pass ~2019 Ver.~
品番:DQCL-3550 価格:2,000円+税
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Interview

上領 亘

GRASS VALLEYのリマスタリングBOXセットが話題を集める中、上領亘のミニ・アルバム『Prayer』がリリースされた。GRASS VALLEY脱退後は、SOFT BALLETのサポートやP-MODELへの参加、2012年からはテクノ民謡ユニット・NeoBalladを結成し、2018年にはcali≠gariのアルバム『14』にゲスト・ドラマーとして参加するなど、精力的に活動を続ける上領だが、ソロ名義の作品としては1998年のアルバム『鴉Ⅲ』以来、実に21年ぶり。今回の『Prayer』は、GRASS VALLEY時代の作品「鶴」(1989年発表『LOGOS』に収録)と、ソロ作品「Night Pass」(1997年発表『鴉Ⅱ』に収録)の2曲を“〜2019 Ver.〜”としてセルフカバーしたものと、未発表の新曲2曲を収録した全4曲。得意とするアンビエント系のサウンドをベースに、静かな安らぎを感じさせる美しくも壮大な世界。密室感のある刺激的な音づくりから、癒しにも似たチルアウトなど、彼の精神世界を追体験するような心象風景が広がっていく。今作が生まれた経緯と、そこに込めた思いを聞いた。

—— 『Prayer』はソロの作品としては21年ぶりとなりますが、上領さんブレてないですね。

上領 まぁ、そうですね(笑)。

—— 今作のリリースに至る流れを教えていただけますか?

上領 去年1年遅れでしたがデビュー30周年記念のライブを開催しまして、その際にリアレンジして演奏した「鶴」と「Night Pass」を会場限定で販売したんです。ライブに行けないけど手に入れたいというお声も各地からたくさんいただいたんですが、流通に乗せることができなくて。

—— 通販もやらなかったんですか。

上領 そうなんです。いつかちゃんと機会を設けて、きちんとしたCDを作りたいなと思っていたんですが、今回GRASS VALLEYのBOXが出るということで、タイミング的にはちょうどいいなぁと。未発表だった曲も含め、急ピッチで仕上げました。

—— ミニ・アルバムという形にすることになって、アルバム全体のコンセプトは考えました?

上領 最初に“ブレてない”っておっしゃってくださったけど、コンセプト先行ではなく、形にしたかったものを今の想いを込めて形にしたという感じです。どの曲もとにかく突き詰めました。要はめちゃめちゃマニアックなんですよね、僕(笑)。だから、深く考えずに、その曲が持つ世界観をとにかく大切にしながら、細かく追求していくっていう作業をさせてもらった感じですかね。

—— 制作に関しては、どういう環境で録られたんですか?

上領 大体のことは自宅でできる環境があるんですが、ドラムはLEVINさん(La'cryma Christi)のスタジオ(ラボ・エル)で録らせてもらいました。CD-Rバージョンの「鶴」は生ドラムじゃなかったから、今回はさらに進化してる感じですね。

—— ドラムは生で録りたかった?

上領 今回「鶴」は、リマスター後のさらにリメイクみたいな形になるので、僕が打ち出すものは少し進化させて、生で表現したいと考えていました。原作とはまた違う世界観をプラスしたアプローチができたらいいなぁと思っていました。鶴が大地で過ごし、空高く飛び立つ有様をイメージした曲なんですが、現在の制作システムを使ってより壮大な世界の表現が可能になりました。GRASS VALLEYの時にはなかった生ドラムが加わった事と、ベースパートも加わって、よりライブ感が出せたんじゃないかなと思っています。

—— 「鶴」は、GRASS VALLEYバーションを聴いたときから“和”な感じがするなぁと思っていたんですけど、その後にNeoBalladの活動がスタートしたり、指向が一貫してますね。

上領 ただ、面白いことに、原作の「鶴」には実は和楽器は入ってないんですよ。鼓のサンプル音は入ってますけど、三味線もなかったし、太鼓も別に和太鼓ってわけではなかったし。でも、今回は間奏のところで三味線を入れたりしてるんですよね。もうちょっと“和”を強調して。

—— なるほど。和楽器を使わずしてあの雰囲気ですか。。

上領 そうですね。当時は日本的な作品というイメージで作りました。GRASS VALLEY時代にやりたかったオリエンタリズムを自分なりに打ち出したかったっていう部分では、成功した曲だったんだろうなぁと思っています。ありがたいことに、この曲を好きな方はすごく多いみたいで、今回も喜んでいただけるんじゃないかなと思っています。

—— 上領さんが作曲したGRASS VALLEYの楽曲の中でも、特に「鶴」は上領さんらしく感じます。

上領 基本的に、こういうアンビエント系のほうが得意なんでしょうね。GRASS VALLEYの時はワイルドなことにも挑戦したんですけど、根底に流れてるものとして、基本的に静寂感とかそういうほうが好きみたいで。自分を見つめるって意味でも面白かったですね、今回。作りながら、あぁ、俺こういうことをやりたかったんだなって思ってて。

—— 「Night Pass」は2ndソロ『鴉Ⅱ』収録曲なので、約20年ぶりのリメイクとなります。

上領 まずは30周年ライブに駆けつけてくれた方へのお礼として、何かリメイクして披露しようと思った時に『鴉』シリーズの中からも一曲チョイスしようと思って、全部聴き直してみたんです。歌って欲しいという要望が多かったんですが、これだったらライブで表現できるかもしれないなと。で、頑張れば、ピアノを弾いてやれるかもしれないと思って。会場のはグランドピアノだったし、自分でハードルあげちゃって大変だったんですが(笑)。実は、そもそもピアノが弾けない僕が作ってるということもあって、シンプルなピアノフレーズがベースになっています。リメイクする際に、例えばMIDIを駆使して分厚い音にしたりとか、色々試してみたんですけどあまり良くなかったんですね。つまり完成度の高いピアノフレーズなんだなということが再認識できました。なので世界観は当時のままに、音色等を再構築して、歌も新たに録り直しました。

—— 基本あまり変えてないですけど、原曲はSUGIZOくんのギターが雰囲気を作ってましたね。

上領 そうですね、あれは凄く良かったですね。SUGIちゃんの存在感は再現できないけど、元々のシンプルな良さを引き出す方向で再構築しました。繰り返しが一つもなくピアノのフレーズがずっと進行していって、展開の部分でも音がバンバンぶつかっていても気にしない、みたいな組み立て方をしていますが、ぶつかっている箇所もなぜか心地良い響きになっていたりして。でも、これが少しでも外れると気持ち悪くなっちゃうんですよね。すごく不思議な曲だなぁと思ってます。制作中はなんだか過去の自分と対面しているような感じで面白かったですね。

—— 曲を作った時にイメージしていた情景って覚えてます?

上領 なんでしょうね…。何かひとつの物事が終わりを迎えた朝、広大な空間にひとりで佇んでて…暗闇が透けていくように、黒が少しずつ青に変わっていく世界にいて、静寂の中に次元の違う無数の、パラレルに存在する朝を感じる。これから眠るんだけど、このままもう目が覚めなかったとしても何だか納得できるかもしれない…みたいな、ふわっとした情景かな。

—— この曲の不思議な安らぎ感っていうのは、そういうところなんですかね。

上領 そうかもしれないですね。

—— 「Geronimo」には、山口一久さん(Loverb、ex:modern-grey)がギターで参加してますね。

上領 そうそう。すごい昔に入れてもらったんです。

—— 最近弾いたものじゃないんですか?

上領 違うんですよ。音源としては未発表だったんですが、この曲を作ったのが、やっぱり『鴉』シリーズの頃で。ギターはその時に弾いてもらったテイクを使って、他の音はリメイクしました。ギターに関しては、当時はもっとエフェクトをかけようと思ってたんですが、今回仕上げるにあたってはエフェクトをかけ過ぎず、元の音を重視しました。山ちゃんに曲の中で好きなように何本も(何テイクも)弾いてもらって仕上げていったんですけど、ギターが呼吸してるっていうか、喋ってるみたいですごいなと思って。

—— それを素材として使っているわけですね。彼のギターは本当に透明感・清涼感があって気持ち良いですよね。作品としては20年くらい昔に作った楽曲だったんですね。

上領 歌詞は少しだけ手を入れましたけど、コンセプトとかイメージ的には全く変わってないです。当時、アメリカン・インディアンの精神性とかがすごく好きで色々な文献を読んだりしていて。彼らが大地と結びついて数千年に渡ってつないできた、生と死、世界(神)と自分、というような生き方と考え方をテーマに作った作品です。迫害されて憤りながらも、自然との結びつきを大切にし続ける彼らを尊敬しています。この曲のタイトルは迫害と戦った戦士として有名な「ジェロニモ」から来てるんですが、ジェロニモって戦闘的なイメージじゃないですか。でも、彼の根底にあるのは、大地と世界と共にあるという精神性そのものみたいな。アメリカン・インディアンの象徴的な存在としてタイトルにふさわしいなと思って名付けました。

—— 「Geronimo」の歌詞にも“祈り”という言葉が出てきますが、それは今回のミニ・アルバムのタイトル『Prayer』にも繋がってくるんですか?

上領 まぁ、ある意味そうですね。「祈り」ってどの曲にも繋がってる感じがあったし。「Prayer」という曲自体も、最初はもっと複雑な曲名をつけてたんですけど、作ってるうちにどんどんソリッドになっていって、最終的に、「Prayer」だなって収まった感じなんです。

 祈りの中にある要素は一つではありえない、祈りという行為の中にはきっと様々な葛藤があるという事をイメージしています。例えば、神を信じている、信じていない、願いは叶う、叶わない、尊敬、感謝、軽蔑、畏怖、祈っても意味がないのではないか‥でも祈りたい、祈るしかない…。とかね。語り尽くせないテーマですけど、祈りには複雑にいろんな気持ちが混在して、いろんな感情が交差しているものなんじゃないのかなと思って。

—— いろんな気持ちや状況の中で、でも、こうあったらいいなっていう希望みたいなものですかね。

上領 そうですね。でも、祈る事で最後にはどこか厳かな気持ちになれるっていう。祈りには気持ちを整理する意味合いもあるのかもしれません。

—— 今回のミニ・アルバムが完成して、今はどんな事を感じてますか?

上領 ありがたいですよね。ソロでこういうことができる環境ってなかなかないじゃないですか。本当にいい機会を与えていただいたなぁと思っていて。ソニーミュージックもそうだし、ユッキー[yukihiro(L’Arc~en~Ciel/ACID ANDROID)]にも、GRASS VALLEYにも感謝ですよね。こういう流れを作ってもらって。

—— 今の上領さんの世界観を表現できたなっていう手応えは?

上領 ありますね。昔の曲たちではありますが、音色だったり歌だったり、そういうものは全部見直して、納得の行く形で追求できたかなと思ってます。最近は主にNeoBalladとして日々、民謡や長唄のアレンジに没頭してきましたが、他の活動もしかり、この20年で培ったものだったり、これまで表現できなかったものも昇華できたんじゃないかなと。

—— 最後に、ファンの方たちに何かメッセージをお願いします。

上領 そうですね…。30年以上もこうして活動してこられたのは、ライブや作品を楽しみにしてくれてずっと応援してくださってる方々がいるからなんだと、いつも有難く思っています。そんな皆さんに、僕が表現したかったものをこうして形にできて、お届けできるってことは本当に良かったなって思うし、喜んでもらえたら嬉しいです。

インタビュー・文/舟見佳子

NeoBallad LIVE INFORMATION

NeoBalladワンマンライブ
『天地人神心Vol.7~令和元年幸い祭り~』  Sold out

2019年6月9日(日)高田馬場・音部屋スクエア (新宿区高田馬場4-4-13 アルプスビル高田馬場B1F)

OPEN 14:00 / START 14:30 (16:30終演予定)

土生みさお(津軽三味線)/ミカド香奈子(篠笛・お囃子)/夢時(Guitar)

<チケット料金> 4,500円

Profile

上領 亘(かみりょう わたる)

1987年GRASS VALLEYのドラマーとしてメジャーデビュー。
デビュー当時からその演奏力の高さに加え、独自のドラミングが注目される。1990年に5枚目のオリジナルアルバムをリリース、ツアーを行った後、GRASS VALLEYを脱退。脱退後はSOFT BALLETのサポート、P-MODEL、CROWなどに参加。自身のアルバムも3作品発表しソロ活動も行う。
2012年からはシンガー若狭さちとのテクノ民謡ユニットNeoBallad(ネオバラッド)を結成。日本全国のみならず海外でのLIVE活動も注目を浴びている。
2019年5月27日には21年ぶりのソロ作品となるミニアルバム『Prayer』をリリースする。 NeoBallad オフィシャルサイト GRASS VALLEY ソニーミュージックオフィシャルサイト