伊藤 蘭 マイ・ブーケ

伊藤 蘭 マイ・ブーケ

伊藤 蘭 マイ・ブーケ

Interview

伝説のアイドルグループ・キャンディーズの解散からちょうど40年経った、2018年初夏、そのプロジェクトは静かに動きだした――メンバーだった伊藤 蘭の歌声を41年ぶりに世の中に届けるべく、初のソロアルバムの制作がスタートした。数々のヒット曲を世に送り出したキャンディーズが、シーンから姿を消し、あまりにも多くの時間が過ぎていた。伊藤 蘭は女優として確固たる地位を築き、歌の世界からは遠ざかっていた。しかしこのタイミングで、何が伊藤の心を動かし、歌う決意をさせたのだろうか。レコーディング真っ最中だという伊藤は、「すべてのタイミングが合ったという感じで、思いがけず弾みがついてしまったというか(笑)。これまでは女優として舞台で歌を望まれることもありましたが、歌とは線というよりは、点線で繋がっていたという距離感でした」と教えてくれた。歌でこの世界に入ってきた伊藤の心から歌の事は消えることがなかったが、濃い霧がかかっていたような状態だったのかもしれない。他のアーティストのライヴを観に行っても「完全に観客であって、自分では歌いたいという気持ちには至らなかった」という。

別に歌が嫌いになったわけではないですし、お芝居に夢中になりすぎて、ちょっと疎遠になった友達に久しぶりに会う感じでしょうか(笑)

「昨年春に事務所からそろそろ歌をやりませんかと言われたとき『やったほうがいいのかな』って直感で思ったんです。もちろん歌うということに自信なんてないですし、でも年齢的な事も考えると、そうそうこんなチャンスがあると思えないですし、まだエネルギーがあるうちに、歌ともう一度向き合うのもいいのではないか思いました。間違いなくラストチャンスだと思ったから。別に歌が嫌いになったわけではないですし、お芝居に夢中になりすぎて、ちょっと疎遠になった友達に久しぶりに会う感じでしょうか(笑)。また、一緒にやりましょうと言ってくれたプロジェクトチームひとりひとりにぬくもりと信頼を感じたことも大きかったです」と、“歌おう”と決めた理由を教えてくれた。

色々な作家に曲を発注。「今の伊藤 蘭に歌わせたい曲」が110曲も集まった。その中からスタッフと共に11曲をセレクトした。「私が感じている世界観を曲に反映して、それを日常の中で、色々な場面で聴いていただいて少しでも幸せな気分になっていただけたらなって思いました」。作家陣は豪華な顔ぶれが揃った。井上陽水、阿木燿子×宇崎竜童、トータス松本、森雪之丞etc…ポップス、ロック調、バラード、ディスコっぽいもの、ボサノバ調と、多彩な曲が揃った。「レコーディングは、一曲を録り終わるごとに、一難去ってまた一難という感じで、結構追いつめられてるような気がしました(笑)。これは昔と変わらないですね。いざマイクの前に立つと、どこに向かって歌えばいいのかという感覚が甦ってくるまでに、少し時間がかかりました。昔は若さゆえ力任せに歌っていた部分も多かったかもしれません。でも今回の楽曲は、曲もアレンジも素晴らしいものばかりで、それを伝えるためには、いかに力を抜いて無理をしないところで歌うというのが、一番のポイントかな思いました」。

どの歌にも感じるのが、表現力はもちろんその“耳心地のよさ”だった。キュンとさせてくれたり、色っぽさを感じさせてくれたり、丁寧に歌を紡いでいるのが伝わってくるが、際立っているのは、なんといってもその“耳心地のいい”声の存在だ。

どんな年齢層の方でも、それぞれが自分と重ねることができて、気持ちを寄せることができる歌が、聴いてくださる方も、歌っているほうも楽しいと思います

「女なら」「Wink Wink」「ミモザのトキメキ」では作詞にも挑戦している。「思い浮かんだフレーズや言葉を使いたいと思っても、メロディにのせた時に、それが効果的に聴き手に届くかというと、そうとは限りませんし、やはり詞は、シンプルなほうがいいんだな、など試行錯誤しながら作る作業も楽しいことでした。どんな年齢層の方でも、それぞれが自分と重ねることができて、気持ちを寄せることができる歌が、聴いてくださる方も、歌っているほうも楽しいと思います」。

アルバム発売後は、それをお披露目するコンサートも予定されているという。「コンサートやお芝居でも、観に来てくださっているお客さんの目線に助けられる部分がとても大きいと思います。“与えられた場所”だと思っていますので、その期待に応えられるよう、来て下さった方々と楽しい時間を共有できるよう努めたいと思います」と、久々に立つステージへの意気込みを教えてくれた。聞き手:田中久勝

伊藤 蘭 ソロ・デビュー・アルバム 『My Bouquet』発売記念 スペシャル試聴会&トークイベントREPORT 2019年5月28日@山野楽器銀座本店

伊藤 蘭 「My Bouquet」

    伊藤蘭のソロ・デビュー・アルバム『My Bouquet』の5月29日発売を記念して、28日夜、 山野楽器銀座本店にて伊藤蘭本人を迎えたアルバム試聴会&トークショーのスペシャルイベントが開催された。事前にアルバム予約して、幸運にも応募抽選に当選したファン70名が座る7F Jam Spotホールには程よい緊張感が漂う。それもそのはずキャンディーズ解散から41年ぶりのアルバム発表ということで、マスコミも大挙押し寄せ、ストアイベントとしては異様なまでの光景となった。アーティスト伊藤蘭として公の場に登場するのも41年ぶり……そんな膨らむ期待感にも満ち溢れた会場も定刻となりステージ照明がアップ。司会進行の音楽ライター・長井英治に促され本日の主役が登場した。

    割れんばかりの大きな拍手に包まれ、少しだけ照れ笑いを浮かべた伊藤蘭。客席に深くお辞儀をする主人公。登壇ステージに用意されたチェアに腰かけ、拍手が止まないなか試聴会&トークイベントはスタートした。

伊藤 蘭 「My Bouquet」

伊藤  今日はお越しいただきましてありがとうございます。アルバムをご購入していただいた上に、ご応募してくださって、今日ここに、わざわざ大事な時間を割いて来ていただいて、本当にありがとうございます。短い間ですけど、最後までよろしくお願いいたします。

会場  (大拍手!)

長井  今日は遠くから来てらっしゃる方もきっといるんですよね?

会場  (仙台! 群馬! 能登!)

伊藤  (驚きの表情)すごい。ありがとうございます。

長井  みんなで最後まで楽しい時間にしましょう。というわけで、先ほど登場時に流れていたアルバム『My Bouquet』のオープニング「Wink Wink」なんですけど、蘭さんご自身で作詞をされたということですね。歌詞を読むと蘭さんの人生までも語られているような、深い意味をいろいろと感じるのですが。

伊藤  ありがとうございます。佐藤準さんが作曲してくださった曲です。明るいメロディから、パーっと扉が開いて次の世界が広がっていくようなイメージを抱きました。さらにそこに詩をのせさせてもらったら、どんな世界観になるのかなぁって。なんとなく、時を経た夫婦でもない、カップルが、朝の散歩か昼の散歩かはわからないのですが、どこか海が見えるようなところを歩いているようなイメージが湧いてきて……。

長井  実体験なのでしょうか。気になるところですけれども(笑)。単語の使い方が美しくて。ところで普段作詞とかは?

伊藤  まったくしていませんでした(笑)。

長井  そうでしたか。さすがだなと思ったんですけど……そういえば蘭さん、この山野楽器本店は初めてではないとお伺いしたんですが。

伊藤  はい。18歳くらいですかね。キャンディーズのデビュー曲「あなたに夢中」の時、発売後まもなくの頃でしたね。キャンペーンの一貫として、山野楽器本店内でイベントをして、1階の店舗で3人でデビュー曲を歌ったような覚えがあるんですよ。

長井  その通りです。ここにある記録によるとイベントが行われたのが1973年9月24日とありますので、9月1日発売だった「あなたに夢中」の本当に発売直後ですよね。

伊藤  サイン色紙とキャンディー箱がもらえたって書いてありますね(笑)。懐かしいですね。

山野楽器  (お帰りなさいの意味を込めて山野楽器さんの方からお祝いのブーケを蘭さんに手渡しプレゼント)

伊藤  ああ、キレイ。すごい。素敵ですね。ありがとうございます。すごく素敵なバラですね。嬉しいです。

伊藤 蘭 「My Bouquet」

長井  いまあらためて。久しぶりにファンの方を目の前にして、歌手・伊藤蘭さんとしてのご気分はいかがですか?

伊藤  いやー、まだ、なんか実感がわかないですけど。(客席の方を見ながら)なんか、どうぞ、皆さんお楽になさってくださいませ。

長井  蘭さんの口からお聞きしたいんですけど、41年ぶりに歌手活動を再開したきっかけを教えていただけますか?

伊藤  私の事務所の社長が音楽好きということもありまして。常日頃から、蘭さん歌わないの? みたいなことは言われていたんです。「あー、歌ねぇ」みたいな感じて応えていたんですけど、去年の春先くらいにもまた、同じような投げかけがありまして。「そうかー歌かぁ」って。もうね、私も皆さんご存知のように、いい歳になってきてしまっているので……

会場  (ほぼみんな首を左右にふる)

伊藤  (笑)でも幸いなことにまだ身体は元気ですし、自分も歌うという仕事に対してもやる気もあるので……せっかく歌を通してこの世界に入って来たというのもありますし、もう一度、歌って見ようかなっていう気持ちになれたっていうか……なれたんですね。

会場  (この日一番の大拍手!)

伊藤  ちょっと遅かったかなー。

長井  (会場を見渡しながら)僕らは今日まで生きていてよかったですよね?

会場  (ほぼみんな首を前後にふる)

長井  ここからは、アルバム『My Bouquet』の魅力に触れていきたいですけ。蘭さんに歌って欲しい曲をコンペという形で募ったところ、なんと110曲も集まったということでね。その中から厳選に厳選を重ねた11曲が収録されてるということになりますね。

伊藤  110曲のなかには本当にいい曲がたくさんあって。できればもっと歌いたいなっていう曲もあったんですけども、やっぱり収録という限りがあったので、スタッフの方々と何度も協議を重ねながら11曲に決めさせてもらいました。

長井  作家陣を見ていますと、井上陽水さん、宇崎竜童&阿木燿子夫妻、トータス松本さん、門あさ美さん、森雪之丞先生といったビッグネームから、2018年日本レコード大賞作曲賞を受賞した丸谷マナブさんや若田部誠さんといった、現在のJ-POPの先端で活躍されているクリエーターの方が参加されていますよね。

伊藤  はい。そうなんです。嬉しいですね。豪華な顔ぶれの方々が参加してくれました。

長井  今回のアルバムは全体を聴くとわかるんですけど、本当に様々なサウンドですよね。歌い分けるというのも大変だったんじゃないかなと思うんですけど。

伊藤  そうですね。11曲それぞれが、全く違った顔を見せているというか、表情が違うんです。どういう世界観を心に持って歌えばいいかなってちょっと考えてしまった曲もありました。どの曲もそれぞれ、主人公が女性というイメージでした。1曲1曲が、キャラクターが違ってもいますし、そういう意味では、歌っているのは私ひとりですが、歌唱で表現するときには違ったキャラクターを演じるということも考えながら歌入れはしました。

伊藤 蘭 「My Bouquet」

長井  それでは、蘭さんと一緒にこのアルバムの何曲かを聴きながら、この場でご本人から解説をしていただこうと思っています。まずはアルバム3曲目に収録されています「Let’s・微・smilin’」です。

(会場に流れる「Let’s・微・smilin’」に合わせて蘭さんも身体を揺らしながら口ずさむ)

伊藤  (聴き終えて)すごい素敵な曲です。本当に幸せな気持ちになる曲なんですね。

長井  宇崎竜童&阿木燿子夫妻から曲いただいた時はどんなお気持ちでしたか?

伊藤  宇崎さんというと、ちょっとロック色が強いイメージだったので、こういう40年代っていうんですかね、ジャズ、スウィングジャズみたいなイメージがとても新鮮でした。

長井  こういうタイプの曲はキャンディーズ時代にはなかったかもしれませんね。

伊藤  そうですね。ちょっと大人向けになってはいるんですけれども、どんな人にも気に入っていただける曲になったなっていう気がします。

長井  「微」は「微笑がえし」の「微」ですよね。41年前にキャンディーズで1位を獲得した「微笑がえし」の作詞家が阿木耀子先生。そこから41年後の蘭さんのソロ・デビューで再び阿木さんが詩を書かれた。タイトルも「微笑みましょう」ということでよろしいんでしょうか?

伊藤  (微笑み)

長井  次の曲はアルバム2曲目の「あかり」です。お聴きください。

(会場に流れる「あかり」に合わせて蘭さんも身体を揺らしながら口ずさむ)

伊藤  この「あかり」は110曲集まったデモの中でもとくにスタッフの人気の高かった曲だと伺っています。

長井  確かにそういう空気はありました。ちょっと落ち着いた感じの歌で、人の温もりを感じられる曲ですよね。

伊藤  すごく蘭さんにぴったりな曲だなと。

長井  (照れながら)ありがとうございます。あの、本当に、そうですね。日々の中のささやかな幸せこそが、大切なものって歌っているところが、足ることを知るというか……いい温もりのある歌になったと思います。

伊藤  次はアルバム9曲目に収録されている「女なら」なんですけど、この曲は蘭さんが作詞されていますね。それでは一緒に聴いてください。

(会場に流れる「女なら」に合わせて蘭さんも身体を揺らしながら口ずさむ。客席から手拍子が起こり蘭さんも嬉しそう)

長井  試聴会で手拍子が起きるなんてあまりないことですけど(笑)。

伊藤  みなさんここで入れてきましたね(笑)。ありがとうございます。

長井  この曲はどういう思いを込めて作詞されてるんですか?

伊藤  まず、最初に曲を聴いたときに、昭和歌謡っていうか、あの頃の、あの感じがしました。あと、「女なら」っていう仮タイトルだけが付いていて。歌詞も最初はもっと若い女性が歌うような内容だったんですが、さすがに私ね、いくら女の子のふりをしてもホラ、もうダメでしょ(笑)? 

会場  (ほぼみんな首を左右にふる)

伊藤  (笑)なので、多少年齢を上げて、自分の今の等身に近い形にしました。でも、いろんな世代の女性が聴いても、ああそうだなって共感できるような内容にしたかったので、女性のなかにある強さも弱さも出してみました。みんなそれぞれいろんな面を持っていますからね、女性って。サウンドのアレンジは佐藤準さんでした。

長井  次の曲はアルバム6曲目の「ああ私ったら!」です。

(会場に流れる「ああ私ったら!」に合わせて蘭さんも身体を揺らしながら口ずさむ。客席から往年の「ランちゃ~ん!」コールが起こり蘭さん驚き&ニッコリ)

長井  ランちゃんコール出ましたよ。久しぶりじゃないですか?

伊藤  はい、懐かしいです(笑)。

長井  ユニークなタイトルの曲ですが、ウルフルズのトータス松本さんの作詞・作曲になりますね。トータス松本さんはキャンディーズの大ファンだったということで、この曲は「年下の男の子」のその後を描いたというふうにも聞いていますが。

伊藤  そうですね、(男の子は)結婚したんですね(笑)。

長井  ファンにとっても嬉しいですよね。でも、歌詞のなかで年上の奥さんは年下の旦那さんのお誕生日を忘れてしまうんですよね。蘭さんはそんなことはないですよね。実生活では?

伊藤  それがあるから、どうしてわかったんだろうって(笑)。私なんかでそのことを言ったのかなぁ、きっと(笑)。

長井  次は試聴会最後の曲です。アルバム10曲目に収録されている「マグノリアの白い花」です。どうぞ!

(会場に流れる「マグノリアの白い花」に合わせて蘭さんも身体を揺らしながら口ずさむ)

長井  陣内大蔵さんの作曲でした。すごい素敵な歌ですよね。

伊藤  デモテープで聴いたときに、もう1回聴きたいな、もう1回聴きたいなって……。

長井  スルメソングっていうことですね。

伊藤  スルメソング(笑)? あーなるほど。リスナーみなさんもそうなってくださるといいと思いますけどね……でもスルメっていう言葉が似合うかどうか(笑)。

伊藤 蘭 「My Bouquet」

長井  というわけで、ここまで5曲を一緒に聴いてもらいました。残りの曲は皆さんご自身でお楽しみください。CDには素敵な写真ブックレットも付いていますが、これはどこで撮影されたんですか?

伊藤  これは横浜です。

長井  先ほどレコード会社のスタッフから聞いたんですが、7月10日に『My Bouquet』アナログ発売も決定しました! 先ほど一緒に聴いた「マグノリアの白い花」の別ヴァージョンがLPの方には収録されることも決定していますね。

伊藤  はい。わりと楽器も多用していて、CDヴァージョンよりもLPヴァージョンのほうがちょっとキラキラした感じになっています。

長井  そして、明日(5月29日)にはこのアルバム『My Bouquet』がリリースになります! 今日はもう店頭にCDが並んでいます!!

会場  (大拍手!)

伊藤  いやー、こんなことになるなんてね。初めは記念というか、新しく2、3曲レコーディングができればいいかなと思っていたのですが、最終的にこんな素敵な1枚のアルバムを作ることができて感謝しています。

長井  まもなくコンサートも控えています。

伊藤  ああ、はい。(困った顔で)そうなんです。

長井  東京は6月11日、12日の東京ドームシティホール。つまり、あの解散コサートを行った後楽園ということになります。

伊藤  はい。そのすぐ近くということになりますね。

長井  意気込みを聞かせてください。

伊藤  なんかちょっとコンサートを考えると本当に緊張してきちゃって……なんですけど、こうなったら皆さんと一緒に楽しい時間を過ごしたいなと思っています。ぜひよろしくお願いいたします。

会場  (拍手!)

長井  でもアルバムの曲数だけじゃコンサートできないんじゃないかなーとか。

伊藤  そうですね(笑)。あと数曲考えております。

会場  (大拍手!)

長井  アルバム試聴自体はここで終わりなんですけど、事前にファンの皆さんから質問を受け付けていたので、蘭さん、この場で答えてくださいね。まずはセンゴクさんという方です。「蘭ちゃんへ、名古屋でのキャンディーズファイナルコンサート以来です。ソロ・デビューおめでとうございます。アルバムのタイトル『My Bouquet』はどのような背景で名付けられたのですか?」とのことです。

伊藤  ありがとうございます。そうですね。歌を全部入れ終わって、さて、どういうアルバム・タイトルにする? というところから始まって。いろんな案が出たんです。でも、振り返ってみたら、お花が出てくる曲が半数くらいあったんですね。偶然に。こんなにお花が歌詞に出てくるんだったら、もう花束しかないんじゃないかと思いまして。ブーケはどうですか? いいですねって。じゃあ、それにMyをつけましょうということになり『My Bouquet』になりました。

長井  もう1問だけ答えていただきたいんですけど、ニキさんからです。「キャンディーズの時とソロで歌う時と気持ちの違いはなんでしょうか。発声の仕方もまた異なるかと思いますが、そのあたりも教えてください」とのことです。

伊藤  ありがとうございます。そうですね。昔は本当に3人でスタジオにいたということが、どれだけ心強かったかっていうことをあらためて今回のソロ・レコーディングでひしひしと感じました。

長井  やっぱり3人の時は間違えちゃったりするとフォローが入ったりするんですか?

伊藤  そうでしたね。3人3等分されてるっていうことがありますから、視線も1点集中されてない分ね(笑)。キャンディーズは音楽的には絶対に最強だって思っていました。ユニゾンの力強さとか、ハーモニーの豊かさとか、ひとりひとりがソロをとっても違う表情が出て行くところなど。音楽的に振り返ってもやっぱりキャンディーズはスゴかったんだなってあらためて確認した次第ですね。

会場  (大拍手!)

長井  発声方法は違いますか?

伊藤  そうですね。キャンディーズ時代は訓練というよりも、ボイストレーニングとかもほとんどなしで、メンバー全員が自己流でやっていたと思うんです。正直、若さ、力任せみたいなところで、歌っていたところもあったと思います。今は少し年齢にも応じたような歌い方になっていたらいいんですけどね。

長井  ご自宅とかでも歌われたりするのですか?

伊藤  家のなかであんまり大きな声を出すのは恥ずかしいですよね。だからちょっとハミングくらいの感じで。

長井  今回ご家族の応援はいかがですか?

伊藤  マスタリングが終わってから、なかなか自分から言い出せなくて。そしたら、もう「いい加減に聴かせない」(水谷豊さん風に)って言われちゃって。

会場  (爆笑)

長井  実際に聴かれて、なんと?

伊藤  「すごくいいアルバムに出来あがってよかったね」って言ってくれました。

長井  今日はあっという間でしたが楽しい時間でした。明日からしばらく歌手・伊藤蘭さんとして、公の場に立つわけですけど。

伊藤  こんなことになるなんて思ってなかったんですけど。やっぱり少しだけ長く生きていると、こんないいことも起こるんだな。なんて、今、皆さんのお顔を見ながらしみじみと思いました。古くから応援してくださった皆さんが、41年の時を経てもこうしてお元気で嬉しいです。今日という日のようなこんな素敵な時間を過ごすことができて、それもまた感慨深いと言いますか。なんかね、なんでしょう(笑)、遠い親戚の人に今日久しぶりにあったみたいな感じがいたします。

会場  (喝采&拍手!)

長井  最後にメッセージをお願いします。

伊藤  ソロ・デビュー・アルバム『My Bouquet』が完成して、皆様の元に届けられることができて、本当に幸せで胸がいっぱいです。ひとつひとつの曲がとてもいい曲ですし、私も心を込めて歌ったので、皆様の生活の場面場面でお供をさせていただければ幸いです。私の曲で、拙い歌ではありますけれども、楽しい気持ちになったり、幸せな気持ちになったりしていただけたらとても嬉しいです。また、11日、12日が東京、そして14日は大阪で41年ぶりのステージということで、多分緊張すると思います。皆さんもね、多分、ランちゃん大丈夫かしら? って感じだと思うんですけど(笑)、お互いに緊張してるともったいないかなという感じがするので是非、楽な感じでいきましょう! コンサート当日は私ばっかり観ないで(笑)。このステージはどんな風になってるのかなとか、バンドさんは何人編成なのかなとか、いう感じで、あんまり私の歌に集中しないで(笑)。コンサートもよろしくお願いします! 今日はお越しいただきありがとうございました!!

会場  (ランちゃ~ん!コール)

伊藤 蘭 「My Bouquet」

    試聴会&トークイベントの最後には伊藤蘭と会場ファンが1枚の写真に収まる記念撮影サプライズも行われた。さらにこの日、『My Bouquet』発売記念として伊藤蘭本人から直接、来場者全員にひとりひとりブーケをプレゼントするビッグサプライズが用意された。会場に訪れたファンにとっては忘れられない夜となったようだ。実際にブーケをもらったファンの声を最後にお届けしよう。

「まさかランちゃんからブーケを貰えるなんて思っていなかったから……ちょっと手が震えています。41年ですか? 何年経っても、ランちゃんは、やっぱり僕らのランちゃんでした。親戚みたいなんて言ってもらえてちょっと涙が出そうです」(東京都・男性)

「キャンディーズは青春でした。今でもよくアルバムを聴いているのですが、今日からランちゃんの『My Bouquet』が仲間入りです。<あかり>が好きですね。今もメロディがアタマに流れています」(埼玉県・女性)

「コンサートは東京2日間行きます! アルバム以外の曲も考えていますって今日ランさんが言っていましたが……あれキャンディーズのことですよね? 違うんですか?? 何を歌ってくれるのか考えるのが楽しいです」(東京都・女性)

「こんなに近くでランさんと同じ時間を過ごせると思っていなかったので、今日、抽選に外れた旧友には自慢というか、申し訳なくて言えないですね。……え!? このブーケですか? (旧友に)あげるわけじゃないですか! 宝物です」(千葉県・男性)

「(涙目で)感動しちゃいました。今日は有休を取ってきました。部下には内緒です。……コンサートですか!? 後楽園、行きます。その日は体調不良で会社を休みます。家族には内緒です」(東京都・男性)

「一緒に試聴しながら聞けるトークは面白かったです。110曲も候補があったなら、すぐに2ndアルバムも出して欲しい。ランさんがもっと歌いたかったと言っていた曲を私も聴きたいです」(神奈川県・女性)

写真/斎藤竜喜 レポート・文/安川達也(otonano編集部)

伊藤 蘭 「My Bouquet」

●LIVEレポート『伊藤 蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019』

伊藤 蘭 「伊藤蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019」コンサート風景

    6月11日、夜7時10分、TOKYO DOME CITY HALL。2500人満員。ほど良い緊張感が漂う会場の客電が落ち、ステージ前方に用意されたカーテン・スクリーンに文字映像が投影される。
「1978 4月 キャンディーズ解散 後楽園」
「2018 初夏 アルバム制作」
「2019 5月 『My Bouquet』完成』
「2019 6.11 東京ドームシティ」
    歓声と拍手。今夜、目の前で行われるコンサートの意味をあらためて再確認する観客たち。カーテンの幕が上がる。客席から起こるさらに大きな拍手と、バンド・メンバーの優しい演奏に包まれるように白いワンピースでステージ中央に立つ伊藤蘭。『伊藤蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019』は、ソロ・デビュー・アルバム『My Bouquet』から、爽やかなミディアム・テンポなナンバー「walking in the cherry」でスタートした。

伊藤 蘭 「伊藤蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019」コンサート風景

    早くも飛び出した「ランちゃ~ん」コールと「お帰りなさい」の声援に少しホッとした様子。最初のMCでは「はい。もちろん緊張しています(笑)。あまり私ばかりを観ないで、バンドの演奏やステージも観てくださいね」と笑いを誘い、会場の緊張をほぐしていく。左右にバルコニーがあるステージセットも郷愁感を誘うようだ。

    表情豊かなアルバム『My Bouquet』から「恋とカフェインとスイーツと猫舌」「LALA TIME」と珠玉ナンバーの演奏が続く。キーボード、ギター、ベース、ドラムス、パーカッション、サックス、トランペット、トロンボーン、コーラス×2という豪華な編成だ。聴き慣れない曲でも一緒に歌えるようにとステージ後方スクリーンには歌詞が映し出されている。長く応援してくれるファンを気遣う伊藤蘭らしい演出のひとつだ。

伊藤 蘭 「伊藤蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019」コンサート風景

伊藤 蘭 「伊藤蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019」コンサート風景

    トータス松本が作詞作曲した「ああ私ったら!」では黒のシースルーと赤インナーのセクシー衣装にチェンジ。「ミモザのときめき」は軽やかにリズムを取る伊藤蘭と客席が心地よくスウィングした。「Wink Wink」では一緒に口ずさむ客席も多くステージの伊藤蘭も最高の笑顔で歓声に応えて会場をひとつにしていく。左右にダンサーをしたがえる伊藤蘭。「ランちゃんはやはりセンター位置が似合う」と確信したのは筆者だけだろうか。

伊藤 蘭 「伊藤蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019」コンサート風景

    ベージュのパンツルックに衣装チェンジした中盤。曲目紹介で悲鳴に近い歓声とどよめきが起こったのはキャンディーズ・セルフ・カヴァーだった。伊藤蘭自身が20代前半で作詞した「恋がひとつ」「アンティック・ドール」。後者はキャンディーズのラスト・アルバム『早春譜』に収録され“ファイナルカーニバル“では人形を抱きながら披露され、最後の最後に強烈なインパクトを残した楽曲だった。41年前に5万人が涙した伝説の会場は、TOKYO DOME CITY HALLの目と鼻の先にあった後楽園球場だった。あちらこちらから飛び出す野太い「ランちゃ~ん」コールに、「わかってますよ」と諭すような優しい表情で客席を見渡す伊藤蘭。この日、最初の感動タイムスリップはすでに高揚感に包まれていた。

伊藤 蘭 「伊藤蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019」コンサート風景

伊藤 蘭 「伊藤蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019」コンサート風景

    ミュージカル仕立てにアンブレラを差して登場したのは「Let's・微・smilin’」。キャンディーズのラスト・シングル「微笑がえし」を手がけた作詞:阿木燿子&作曲:宇崎竜童コンビが提供したスウィング・ジャズ・スタイルのナンバーを軽快なステップで刻む。「マグノリアの白い花」でスロー・テンポに合わせてダンスを魅せたのはTRFのETSUとCHIHARUだった。本曲の編曲者でステージ音楽監督でもある佐藤準の叙情的なピアノに寄り添う伊藤蘭の穏やかな歌唱と非凡なダンスパフォーマンスには、惜しみない拍手が止まない。

伊藤 蘭 「伊藤蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019」コンサート風景

伊藤 蘭 「伊藤蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019」コンサート風景

    終盤、ステージ中央に置かれた椅子に腰掛けスポットライトに照らされながら41年ぶりのソロ活動に至った経緯を想起させる「3つの鍵」を朗読。その直後、ステージの照明が明るくなると黒いレザージャケット+パンツのキュートな伊藤蘭が腰に手を当ててニッコリ。聴こえてきたイントロは「春一番」。ステージ前方席では立ち上がる観客(12日同会場、14日大阪公演は総立ち)。

伊藤 蘭 「伊藤蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019」コンサート風景

伊藤 蘭 「伊藤蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019」コンサート風景

    野太い「ランちゃ~ん」コールに、伊藤蘭はこの日最高の微笑がえし。「その気にさせないで」「ハートのエースが出てこない」「年下の男の子」とキャンディーズのヒットシングルが次々と飛び出し、大合唱と大歓声でボルテージは最高潮を迎え会場には見事な一体感が生まれていた。「だって僕らは何年たってもアナタの年下の男の子だから」。そんな声も聞こえてきたような気がした。

伊藤 蘭 「伊藤蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019」コンサート風景

    この夜、伊藤蘭の歌声がいちばん会場に響いたのは、彼女の自身の作詞曲による最新曲「女なら」だった。現役アーティスト・伊藤蘭の復活 ―― この日ために練習を重ねたバンドとの見事なアンサンブルはやはり特筆に値する。
「今日、直接皆さんの顔を見ることができて、こんなに楽しいすてきなことができて、幸せを感じています。次回があれば歌もダンスもブラッシュアップしたい。お互い、年を重ねてまいりましたが、いつも元気で、明るい気持ちでいることを心がければ、またいつか会えますね」。

伊藤 蘭 「伊藤蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019」コンサート風景

    そしてアンコールはアルバム『My Bouquet』のなかでも早くも人気曲となった「あかり」だった。優しい歌声に会場の空気がかすかに震え、その震えが身体を伝わりメモを取る筆者の指に伝わってきたとき、このステージをもっともっと観たいと心から思わせてくれた。
『伊藤蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019』は、6月12日のTOKYO DOME CITY HALL(2日目)、14日、NHK大阪ホールでは総立ちとなり、大盛況のうちに幕を閉じている。

写真:柴田恵理、樋口隆宏(TOKYOTRAIN)/文・安川達也(otonano編集部)

伊藤 蘭 「伊藤蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019」コンサート風景

SET LIST

① walking in the cherry ★
② 恋とカフェインとスイーツと猫舌 ★
③ LALA TIME ★
④ ああ私ったら! ★
⑤ 秘密 ★
⑥ ミモザのときめき ★
⑦ Wink Wink ★
⑧ 恋がひとつ ☆
⑨ アンティック・ドール ☆
⑩ Let's・微・smilin’ ★
⑪ マグノリアの白い花 ★
⑫ 春一番 ☆
⑬ その気にさせないで ☆
⑭ ハートのエースが出てこない ☆
⑮ 年下の男の子 ☆
⑯ 女なら ★
⑰ あかり ★(アンコール)

  

★『My Bouquet』収録曲 ☆キャンディーズCover

歌:伊藤蘭
音楽監督・キーボード:佐藤準
ギター:江渡大悟
ベース:笹井BJ克彦
ドラムス:福長雅夫
パーカッション:notch
サックス:庵原良司
トランペット:鈴木正則
トロンボーン:鹿討奏
コーラス:渡部沙智子・高柳千野
振付/出演:ETSU・CHIHARU from TRF
ダンサー:Anna、Nana

伊藤 蘭 「伊藤蘭 ファースト・ソロ・コンサート2019」コンサート風景

My Bouquet

品番:MHCL 30600 / 定価:¥3,000円+税

高品質Blu-spec CD2仕様(通常のCDプレーヤーでお聴きいただけます。)

初回仕様限定盤:三方背ケース&ミニ・フォトブック封入

伊藤 蘭『My Bouquet』 購入者先着特典 決定!!

2019年5月29日(水)発売、伊藤蘭ソロデビュー・アルバム『My Bouquet』を、下記対象店舗、チェーンにてお買い上げの方に、先着でスペシャル特典をプレゼント致します。特典は無くなり次第終了となりますので、是非お早めにご購入ください!

購入者特典は各店で仕様が変わります。詳細は各店へお問い合わせください。

CD
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