Special Interview

AKIO DOBASHI
土橋安騎夫

2015~2017年のREBECCA再結成を経て、現在新たなソロアルバムの制作を行っている土橋安騎夫。初のソロアルバム『CHRONICLES』をリリースしてからおよそ30年、ソロ/ユニットとしてこれまでに発表した作品の数は決して多くはないが、持ち前のメロディとサウンドへのこだわりを前面に打ち出し、常にイノヴェイティヴな作風を提示し続けているのは言うまでもないだろう。音楽家・土橋安騎夫の過去から未来を語り尽くすロングインタビューをお届けする。


若いときは、情熱だけで突っ走れるじゃないですか。勢いに任せて作ることもできたし。でも、同じことを今できるかと訊かれたら、できない。

── 1stソロアルバム『CHRONICLES』(1987年)から30年が経ちましたね。

土橋 そうですね。僕も今年で58歳だから。自分が歩んできた道を俯瞰すべき年齢というか…。やみくもに突っ走っている時代だと、なかなか自分を客観視できないじゃない。でも、還暦が目の前に迫ってくると、そろそろ自分というものを俯瞰し始めますよ。だから、今まさにレコーディング中のアルバムが集大成でもあり、これからの指針にもなると思います。

── 自らを俯瞰すると、やはり『CHRONICLES』が原点ですか?

土橋 いや、REBECCAがあっての『CHRONICLES』だから、原点はやはりREBECCA。ただ、『CHRONICLES』のときの曲の作り方は、REBECCAに似ている。REBECCAの延長線上。2ndソロアルバム『FOX』(1990年)から少し変わったのかな。その変化を発展させたのが3rdの『Moon Dog』(1997年)。

── 具体的にどう変わりましたか?

土橋 初期のREBECCAや『CHRONICLES』は、感性の赴くままに書いていた。若いときは、情熱だけで突っ走れるじゃないですか。勢いに任せて作ることもできたし。でも、同じことを今できるかと訊かれたら、できない。なぜなら、さまざま経験を積み重ねてしまったから。音楽的な知識も30年前とは雲泥の差だし。もうあの頃みたいにあふれ出るようには書けない。ただし、善し悪しの問題じゃない。だって、経験と知識で練っている今の曲のほうが完成度は高くなると思うし。だから、経験と知識と情熱のバランスが違ってきたってことです。

── 4thソロアルバム『THE BEST OF ALL TIME』(2012年)は、その名の通りベストアルバムでしたね。

土橋 あれは新曲も入っているけど、REBECCAの曲、松田聖子さんに提供した曲も含め、一旦まとめることで自分を見つめ直そうと思ったアルバム。そこから約6年、少し長い時間が空いたけど、自分を見つめ直した結果、さて、これからどこへ行くのか、それを示すアルバムをレコーディングしています。全曲書き下ろし。前回の『THE BEST OF ALL TIME』には、セルフカバーも含まれていたから、全曲新曲のソロアルバムは『Moon Dog』以来。約20年ぶり。もちろんその20年間で、ウツ(宇都宮隆)に書いたり、サントラを書いたりはしているけどね。自分のための新曲というのは、本当に久しぶり。

── 久々すぎて、自分のための曲はどう書くのか、ソロアルバムはどう作るのか、思い出すのに時間がかかったのでは?

土橋 というより、なかなか定まらなかった、というほうが正直なところかな。だから、20年も空いたわけで…。その長い時間の中、なぜ自分は認められたのか、どこが自分のストロングポイントなのか、いろいろ考えるよね。そうすると、あの曲のあのメロディはどうして作ることができたのかと、自己分析だったり、自己検証もする。はたまたメロディなんて必要ないと思った時期もあった。もともとメロディを大事にしていたはずなのに、メロディと距離を置いている自分に気がついた瞬間があって。60歳を目前に、自分を俯瞰したとき、やっぱり旋律やメロディに対して、もっと鋭敏であるべきだと思ったわけ。だから、旋律への思いが今また覚醒した。これにはREBECCAの再結成も影響していると思いますよ。

── 2015年のREBECCA再結成は、土橋安騎夫にとっても大きな出来事だったわけですね。

土橋 もちろん。そりゃ30年以上も前の、REBECCAの曲をカラオケでいまだに歌ってくれている人たちの存在を、イメージとして理解するのと、現実として目の当たりにするのとでは、全然違うから。あれだけ喜んでもらい、あれだけ盛り上がってもらえば、ステージに立っている者としては、当然、胸も熱く高鳴る。自分を見つめ直すとき、影響がないわけがないですよね。

── 個人的には、土橋メロディの特徴は、センチメンタリズムとインテリジェンスの共存だと思います。

土橋 そこは人それぞれ評価としてありがたく受け止めておきます(笑)。自分が納得できるメロディは、100パーセント狙いや計算だけではできないと思う。だけど、100パーセント運や偶然だけもできない。果報は寝て待てじゃないけど、いいメロディが浮かぶまで待つんじゃなくてね、断片だろうと、欠片だろうと、何かとっかかりがあれば、そこから鋭敏に突き詰めて行く作り方ですね、今はね。

── 作曲をしていると、予想以下のメロディになってしまうこともあると思いますが…。そういう曲でも、時間を置いて聴き直すと、いいメロディに思える場合もあるだろうから、ストックしておきますか?

土橋 そういうあざといことはしない。そこはブレてない。というか、ブレちゃいけないところ。自分の中の合格ラインを下回りそうなときは、もうその時点で辞める。それ以上は作らない。たとえ自分以外の名前で出そうが、自分は自分が作ったことを知っているから、責任はあるわけで。1曲たりとも安易な気持ちで世に出したことはないです。

ベテランぶって、ご意見番になって、新しいことや刺激的なことは若手に任せるなんて生き方は自分じゃないから。もっと前のめりである姿勢を自分自身に対しても示していきたい。

── 土橋安騎夫の足跡を振り返ると、2001年頃からDJ活動も続けていますね。

土橋 ミュージシャンとしてステージで演奏する場合、常にモニター・スピーカー、いわゆるコロガシね、あれの音の悪さに悩まされてきたわけ。ミュージシャンが熱い演奏をすればするほど、力を入れれば入れるほど、グチャグチャな音になってしまう。ま、今はイヤモニを使えば、解消される部分もあるんだけどね。90年代の初めには、まだなかったから。で、当時、小箱のクラブに行くと、DJは自分が出している音をいい音で聴きながらプレイできるんですよ。あ、これいいな、と。それがきっかけでした。実際にやってみると、非常にクリエイティヴだし、刺激的だから、15年以上も続けているんだと思います。そういえば2年くらい前かな、「今回はアナログ盤でやります」と宣言してね(笑)。

── いわゆる「お皿を回す」ってやつね(笑)。

土橋 言ったはいいけど、いざやるとなると、ドキドキでね(笑)。初めてDJやったときのことを思い出しましたよ。僕は、早い時期からTRAKTORというDJソフトを使っているから、あまり大きなことは言えないけど…。自動的に曲をつないでくれるから、使えば使うほど、面白くなくなるわけ。それに比べたら、実際にレコードを回すなんてアナログの権化じゃん(笑)。曲のつなぎだって、そりゃラップトップコンピューターを使うほうが完璧。レコードを使うと、凸凹になる。でも、興奮もするし、面白い。だからと言って、すべてアナログ回帰すべきとも思わないけどね。アナログとデジタル、適材適所で使い分けるべきなんじゃないかな。そういうDJでの経験も現在レコーディング中のソロアルバムに影響を与えていますね。

── 7月19日に青山ZEROで行うイベントライブ「Area Deep」。これはDJとしての活動の一環ですか? ミュージシャンとしてのライブですか?

土橋 基本的にはDJイベントです。ただ、自分が作っている音楽にしても、アナログとデジタルが混在しているように、ライブもDJとミュージシャンが混在している。無理矢理どっちからに位置付けるのはナンセンス(笑)。DJプレイもあるけど、楽器を演奏するライブの側面もあるというか…。30年以上のミュージシャン活動と15年以上のDJ活動の交差点のようなステージをイメージしています。ずっと話に出ている現在レコーディング中の新曲もやるつもりでいるし、REBECCAの曲も演奏する予定。使うのはラップトップコンピューターとシンセサイザーだけ。ステージ上は僕だけ。

── 名実ともにソロですね。

土橋 極めて実験的だけど、スピーカーの配置とかもね、かつてなかったスタイルでやろうかなと。イヤモニをしたら、厳密に言うと、ライブ会場に流れている音をお客さんと共有はできないじゃないですか。

── ですよね。イヤモニの中の音とPAスピーカーから出ている音は別ですからね。

土橋 だから、お客さんと同じ音を共有しつつ、僕自身も最善の音を聴きながら、プレイしようと思っています。あまり細かく言うと、楽しみがなくなるから、これくらいにしておくけど。とにかく会場に足を運んでください。今までにない、クラブでもない、ライブでもない音を体験してもらえるはずだから。これも昨日今日、思いつたわけじゃなくてね。80年代から積もり積もった苦い思いから始まっているわけだし。DJのようなモニター環境でライブをやってみたいって希望は90年代からあったし。実際、99年頃だったかな、ZEROの前身にあたるLOOPというクラブに通い詰めたからね。「ここでライブをやらせてくれ」と。で、実現させたわけですよ。そのとき、かなりの手応えがあって。今回は、それを発展させようと。ライブは自分の音楽の発表の場であると同時に、自分の音楽をお客さんと共有する場でもあるから、どうしてもトライしてみたいんですよ。

── キャリア30年以上のベテランがまだトライしますか?

土橋 ベテランぶって、ご意見番になって、新しいことや刺激的なことは若手に任せるなんて生き方は自分じゃないから。もっと前のめりである姿勢を自分自身に対しても示していきたい。60歳目前だからこそ、そうしたい。たとえばヴィンテージ・シンセサイザーにしても、自分にとっては30年以上も前から弾いている楽器だけど、それを今この時代に使うことは試みなわけですよ。メロディに鋭敏になることも、もともとそうしてきたつもりだけど、今このタイミングで新たにそれを意識して曲を書くことは試みです。同じようにZEROでやろうとしているライブも試み。

今は、凸凹した音を作りたいんだよね。完成された音とか、テクノロジー任せの音とかは求めてない。もっといびつであったほうが面白い。

── 土橋安騎夫の足跡を振り返ると、もうひとつ重要なのが2014年から始めているSynthJAM。

土橋 楽しいですし勉強になりますよ。自分よりも一世代下が浅倉(大介)くんだとしたら、二世代下、三世代下のミュージシャンとも接点を持つことができるから。ただ、自分の場合、もともとシンセサイザー・プレイヤーだったわけではなくて、キーボード・プレイヤーとしてバンド活動を始めたわけで。THE REBELSの『VOLUME ONE』(1992年)を聴いてもらうとわかるけど、シンセと距離を置いた時期もありました。ただ、俯瞰すると、あのときも曲の作り方はREBECCAの延長線上だったけどね。

── シンセサイザーと距離を置いたアルバムという点でもTHE REBELSの『VOLUME ONE』は貴重。

土橋 でも、シンセサイザーという楽器に魅了されて、アナログ・シンセの時代から、40年近くシンセと共に歩んできたと言っても過言じゃない。1周回って、アナログ・シンセの評価が高まっている今、自分なりの音を作りたい欲求も高まっています。

── アナログ→PSG音源→FM音源→PCM音源(サンプリング)→モデリングみたいな変遷をリアルタイムで経験している世代。

土橋 そうですね。だから、20代や30代のシンセサイザー・プレイヤーとは、感覚が違う。彼らにとって、アナログ・シンセは新しいものだけど、自分には、その新しさがわからない(笑)。話してみると、そういう捉え方しているのか、と思うこともあるけどね。基本的には、旧友みたいなものだから。だって、もともと持っていたシンセが、時間が経って、時代を重ねたら、ヴィンテージ・シンセサイザーなんて呼ばれるようになっちゃったわけだから。幼馴染が有名人になったみたいな(笑)。そのヴィンテージ・シンセサイザーと最新のDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)で作っているのが11月にリリース予定のソロアルバム。音程をもつ楽器はとにかくアナログ・シンセのみ。

── それもトライですね。

土橋 特に古いシンセは、とにかくデジタル・シンセと比べると、面倒臭い。いきなりご機嫌が斜めになったりするし(笑)。でも、今のDAWはできないことがない。何でもできる。だから、便利だけど、面白くない。自分を駆り立てるためにも、何かの制約を設けたほうがいいと思って、あえてアナログ・シンセ中心のアルバム作りをしています。確かに超面倒臭いときもあるけど、超楽しい(笑)。今のDAWだと、トータルリコールで、瞬時に今までやったプロセスを完璧に再生できるよね。ところが、アナログ・シンセだと、メモリー忘れるとすぐ消える。あの音色、どうやって作ったっけ?みたいなことが頻発する。何時間もかけて作り直したのに、前と同じ音にならなかったりするし。でも、それもアナログらしさ?だから(笑)。それすら楽しみながら、レコーディングしていますよ。タイムスリップして原点に戻ったような感覚。初めてシンセを手にしたときの興奮も甦るしね。

── 最新の土橋安騎夫を最古のシンセで表現する試み?

土橋 その言い方だと、最新と最古を結びつけるのが、自分の存在価値でもあるメロディ。だから、メロディを作るのも、音を作るのも最高に面白い。ボーカルは現代的な処理をしているから。ある意味、80年から現在まで、すべての時代がコンフューズして、共存しているアルバムになります。あと今は、凸凹した音を作りたいんだよね。完成された音とか、テクノロジー任せの音とかは求めてない。今、世の中に出回っている多くの音楽は、しっかり制御されているし、完成度も高いよね。なのに、自分には立体的に聴こえない。もっといびつであったほうが面白い。昔は、無茶苦茶ベードラがデカくね?みたいな曲があったりしたわけ。DJを始めてからは、なおさらそういう曲と出会う機会が増えて。曲を並べてかけていくと、え!?と思う曲があるから。でも、それがその曲の個性だし、魅力だったりするんだよね。今はダウンロード前提の音だから、スマホで聴いて格好良くしてある。それをスピーカーで鳴らしてみたら、似たり寄ったりの音が多い(笑)。それじゃつまんない。

── 今、すごく楽しそうですね。レコーディングや創作を楽しんでいるのが伝わってきす。REBECCAではリーダー、TM NETWORKのボーカル宇都宮隆さんのバンドT.UTU with The BandとU_WAVEではバンドマスター兼コ・プロデューサー、サウンドトラックを制作するときはサウンド・プロデューサー、つまり土橋安騎夫は常に責任者。そういう立場を1回横に置き、一人のクリエイターとしての時間がソロアルバムだし、ZEROでのライブなんですね。

土橋 リーダーは光栄だし、バンマスを任されることも嬉しいけど、自分という存在や音楽家・土橋安騎夫を俯瞰したとき、それだけじゃない。リーダーもバンマスもある時期の自分であって、足跡の1個。でも、今、示すべきは未来も含めての軌跡であったり、自分の全体像。もっと大きく言うと、生き方かもしれないね。リーダー、バンマス、プロデュサーは客観性が命だとしたら、今は主観的にやっています。どこかできっと客観性も働いているんだろうけど、そこは無意識だから。意識しているのは主観。そうすると、やるべきこと、やりたいことが次から次に出てきている。自信を持って、「今の自分が一番面白い」と言えますよ。

── 絶好調ですね。

土橋 自分の中の波には完全に乗ってるよ(笑)。

取材:2018年6月
インタビュー・文:藤井徹貫
インタビュー写真 撮影:高橋俊一郎

2018.11.21 6年ぶりのソロアルバム
デジタルリリース!!

5th ALBUM

SENRITSU / AKIO DOBASHI

  • 01. Romancer
  • 02. Blue
  • 03. Four Waves
  • 04. Optimist
  • 05. Largo
  • 06. Endless Drive
  • 07. Devotion
  • 08. Romancer (nishi-ken remix)
  • 09. Chagrin
  • 10. Optimist (instrumental long mix)

2018/11/21 digital release 5th solo album「SENRITSU」について

今回のアルバムを制作するにあたって、2つの事をコンセプトにしました。
まず1つは、録音する音程楽器はすべてアナログ・シンセサイザーにしようという縛り。制作においてソフト・シンセが主流となっている昨今、シンセサイザーの自然かつ基本的な波形で音楽を組み立ててみたくなったのです。したがって、使用する機材は自分が所蔵するRoland jupiter-8、MKS-80、juno-106、prophet-5などのビンテージ・シンセサイザーや現行モデルのsystem-500、SE-02、moog sub37、KORG MS-20miniなどです。昔はあたりまえだった音色をメモリーする作業を忘れたり、面倒な事も多々ありましたけど新たな発見もありました。
そしてもう1つは、メロディに対する拘りと追求。この歳になって自分を俯瞰し、自己の進むべき方向性をもう一度見直そうと思いました。…再認識したのはメロディの大切さ。そんな意味も込めてタイトルは「旋律-SENRITSU-」にしました。
尚、作詞に宮原芽映さんと鈴木桃子さん、そしてGReeeeNや様々なアーティストのサウンドプロデューサーで知られるニシケン君にremixで参加してもらいました。

土橋安騎夫

Romancerは夢見る人。ほら吹きの意味もある。かつて、私たちを、夢の世界に引き込んだ、かつこいいRomancerたちがいた。
土橋くんは、今も、そんなひとりです。きっと、これからもずっと。

宮原芽映

キーボーディストならではの音のセレクションやコラージユはまるで電子音のタペストリーのよう!
未来的でありながら少しレトロな感じがするサウンドが心地良いです。土橋さん、素敵なニューアルバムリリースおめでとうございます!
私も関わらせていただき光栄です。どうもありがとうございます。

鈴木桃子

SENRITSU、リリースおめでとうございます!ソロアルバムを作っていると聞いた時からずっと楽しみにしていました。
何より、Remixで参加出来た事を心から嬉しく思います。土橋さんの思考回路によリハードシンセが織り成したこのアルバムは、
とても温かく、まるでアコースティック楽器を聴いているような感覚になりました。
個人的に「Devotion」大好きです。シンセを奏でるクリエイターヘ向けて大切なメッセージが全体の音色に込められた必聴で宝珠の作品だと心から思います。

nishi-ken

AKIO DOBASHI official HP ▶