エレファントカシマシ

伝説の1988年渋谷公会堂ライヴが、
最新技術によるレストア・リマスターで完全に蘇る!

証言②

潔癖症的なピュアリスト時代の彼らを決して忘れたくない。text/荒野政寿(CROSSBEAT)

    初めてのエレファントカシマシ体験は、NHKで観た「ROCK'N ROLL BAND STAND ’87 in NIIGATA」(1987年12月31日)のダイジェスト放送だった。あれがオンエアされた時点ではレコード・デビューしていなかったはずだから、恐らく88年の春先だと思う。放送されたのは「花男」1曲のみ。当時の人気バンドがひしめく同イベントにおいて、彼らが奏でるヘヴィなサウンドは明らかに異質だったし、奇妙なバンド名を目にしたのもこの時が初めてだった。中でもボサボサの髪で首に青筋を立てて、身をよじりながら絶叫するシンガー=宮本浩次の圧倒的な存在感に、これ1曲でノックアウトされてしまった。エレファントカシマシとは、どこの何者なのか? Very loudを意味する確信犯的なバンド名なのだろうか? そもそも、このシンガーはシラフでこういうテンションなのか? 今と違ってインターネットで検索できない時代なので、情報は簡単に手に入らない。咄嗟にノートを取り出して、「エレファントカシマシ、花男、植木等が怒鳴ってるみたい」とメモした。それが素直な第一印象だった。

    それから何日も、「花男」の重厚なサウンドと、言葉の意味を探らずにいられない詞世界が頭を離れなかった。“策士”とはいったい誰なのか、“花男”とはどんな男なのか、“俺”はどうして遠くを歩く自分の姿を眺めているのか…ダダイストが書く詩のような、しかしどこかコミカルな感じもする歌詞だ。録画はできていなかったので、曲の記憶だけを頼りに、ギターを取り出して真似てみた。ちょっとジミヘンの「ワイルド・シング」っぽい、重さがあると同時に推進力もあるリフだ。しかしそのまま押し切るのかと思いきや、サビで一旦ブレイクして、マイナーに転じてホロリと泣かす。そして80年代後半としては珍しいことに、歌詞に横文字が出てこない。同時代に似たようなバンドが見当たらない、独自の言語感覚を持つロック・バンドが出てきてしまった、と真剣に思った。

    やがてエレファントカシマシのデビュー・アルバムがいよいよ世に出ると雑誌の片隅で見かけて、待ちに待ったファースト・アルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI』のCDを購入した(ちょうどレコードからCDへと移り変わる時期のデビューだったので、ファースト・アルバムはLP盤も店頭に並んでいた)。すでに頭の中でヘヴィな「花男」から受けたイメージが壮大に膨らみまくっていたせいもあって、1曲目の「ファイティングマン」や「デーデ」が簡潔なロックンロールなのはちょっと意外だった。得体の知れない突然変異的なモンスターだと勝手に思っていたから、彼らもストーンズやビートルズ、RCサクセション等の影響下にいるんだな、と根っこの部分が見えて少しホッとした。が、自分は彼らに旧来のバンドとの断絶を感じて興奮させられた面があったので、主に「花男」「習わぬ経を読む男」「BLUE DAYS」の3曲ばかり爆音でリピートしていたのを思い出す。彼らがハード・ロックやメタルの文脈とは違う流れで、日本語ロックのヘヴィネスを更新したバンドであったことは確かだろう。

    彼らがデビューした88年当時、紙媒体ではアルバムのレビューを見かけることすら数えるほどしかなく、どうしてこんなに凄いバンドが反響を呼ばないのか?と、ひどく落胆したのを覚えている。その年の4月に高校に入ってから都内のレコード店でバイトを始めて、エレファントカシマシの新譜が出る度に目立つよう陳列し続けたけど、少し売れ始めたのはメディアへの露出が増えた3作目『浮世の夢』ぐらいから、という実感がある。88年9月に渋谷公会堂でワンマンをやると知った時も、「無謀極まりない…」と思いながらチケットを買った。まだライヴハウス規模の会場でさえ毎回満員にはなっていない時期に、あのワンマンが敢行された背景には、「このバンドが成功しないはずがない」というスタッフの強固な信念があっただろうし、“破格の新人による渋公”という話題作りの意味合いも当然あったはずだ。実際、そういう大舞台が似合ってしまう風格が、彼らには最初から備わっていた。

    しかし今回初めて全編が公開された当日の映像を観ればわかる通り、宮本はこうしたスタッフのお膳立てに乗っていない。今では伝説になっている「客電つけっぱなし」がスタッフによる演出であったことを、本作で初めて知るファンも多いのではないだろうか。宮本はステージに登場するなり「変なセット!」と口走り、奇をてらった演出に対して終盤までブツクサ文句を言い続ける。この特異なバンドを売り出そうとスタッフが頭をひねって考えたであろう奇策を、客の前であっさりと否定してしまうのだ。ステージを去る時も平気でマイクを投げ捨てて行くので、ボコッとPAさん殺しの異音が響く。バンドとスタッフの関係がうまくいっているようには到底見えないが、それがありのまま記録されているのが本作の貴重なところ。「ふわふわ」で宮本が「俺に命令するな」のくだりをやけに強調して吐き捨てるように歌う様子は、ソニー提供の音楽番組『eZ』でもオンエアされた。

    その「ふわふわ」や「ポリスター」といった初期レア曲のライヴ・ヴァージョンを観られること自体、今となってはかなり貴重。しかしバンドはこの時点でセカンド・アルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI II』の大部分をすでに録り終えており、リリースに先駆けて「おはよう こんにちは」「ああ流浪の民よ」「待つ男」を披露している。それらの激演ぶりとは対照的に、「星の砂」についてMCで「長い」「途中で飽きる」と言ってしまったり、古い曲に対して醒めた様子を見せる箇所があるのは興味深い。軽快なロックンロールがめっきり減り、過剰なほどヘヴィさを極めた傑作『II』がリリースされたのは、このライヴから約2ヵ月後のことだった。

    お客さんが皆着席したまま身動きもせずにステージを観ているという状況は、当時を知らない人たちが見ると異様に思うかもしれない。これはこの日が特別なわけではなくて、オール・スタンディングの会場でも、極端に反応したり騒いだりすると宮本に怒鳴られる危険性が常にあったのだ。客に水をぶっかけるという噂も耳にしていたので、この日会場でステージドリンクがポカリスエットなのを見て、「浴びるなら水の方がマシだな…」と絶望したのを覚えている。前方の客が宮本にポカリを浴びせられて悲鳴が上がる…という場面を見た記憶があるのだけれど、渋公の映像を観直してみるとビールをステージ上に撒いているだけなので、あれはきっと別の会場での出来事だったのだろう。とにかく通常のロック・コンサートのような双方向の関係性は存在せず、馴れ馴れしい呼びかけも野次も完全拒否。観客は異様な緊張感に包まれてバンドを見守り続けるだけ、という時期が長く続いた。そんなライヴ体験は、後にも先にも初期のエレファントカシマシだけだ。

「ああ流浪の民よ」を歌った後で「ちゃんと聞こえますか、言葉とかね」と突き放すようにつぶやいたり、「ファイティングマン」で歌詞を変えて「力づけなくていいよ~」と歌ったりする場面を見ていると、ファンに自分の真意を理解されていない、こいつらにわかるわけもない、という一方的な諦めのようなものを感じずにいられない。「待つ男」で発せられる「誰も俺には近付くな」という言葉に、当時の宮本のスタンスを重ね合わせたくもなってくる。仕舞いに「こうやって慣れてくんだろうな、俺もな…」と愚痴る様子までカメラはしっかり捕えている。晴れの大舞台のはずなのに、だ。お決まりの拍手、お決まりのアンコール…いつしか慣例化していたライヴのあり方に対して違和感を隠さず、「バカバカしいぜ」と吐き捨てる若き宮本。子供騙しのモンキー・ビジネスと知って身を投じてみたものの、それとどうつき合っていけばいいのかよくわからないという戸惑いや嫌悪感も、ステージ上で一切隠そうとしないバンドだった。

    そういう正直さ、生真面目さに魅了されて、せっせとライヴに通い続けたファンたちが、後々このバンドの窮地を救うことになるわけで。長い長い歴史の中では、もはや最初の数ページに過ぎないけれど、この潔癖症的なピュアリスト時代のエレファントカシマシを決して忘れたくないし、これが原点であったという事実を改めて目に焼き付けておきたい。彼らが日本語のロックにおいて、どれほど革命的なバンドだったか、という考証もそろそろきちんとされるべき時期なのではないだろうか。よく見かける「グランジを先取りしていたのでは」という凡庸な結果論だけでは、彼らの圧倒的なオリジナリティと、養殖されたバンドには出し得ない天然の美を正確に言い表せていない気がするのだ。

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