私が欲しいレコード

幻の名盤から架空の一枚まで。今聴きたい、今欲しいレコードを、各界のレコード愛好家のみなさまに、自由な発想で綴っていただきます。

第3回【直枝政広(カーネーション, Soggy Cheerios, etc.)】 ミュージシャン
第3回【直枝政広(カーネーション, Soggy Cheerios, etc.)】 ミュージシャン

Van Dyke Parks『Discover America』をモービル・フィデリティー・サウンド・ラボのULTRADISC ONE-STEP盤で聴いてみたい



 中古のレコード市場では60年代や70年代にラジオや雑誌などの媒体に配られた白ラベルのプロモ盤がなかなか人気のようです。出来立てホヤホヤのスタンパーでプレスされた盤であるが故に、好事家の間では高音質として認知されていますが、それよりもレアなものとしてテスト・プレス盤というものがあります。こちらはエンジニアやアーティストが、仕上げたばかりの作品をチェックすることを目的に、ごく少量だけプレスされたもので、さらに高音質だったりします。たまに海外のオークションでも見かけますが、例えばニール・ヤング『オン・ザ・ビーチ』やリトル・フィート『ラスト・レコード・アルバム』などの当時の米国盤テスト・プレスは迫力と抜けが桁違い。元の音が良いだけにさらなる極上のリスニング体験ができます。

 とはいえ、これらはマニアの領域の話。商品として発売された初回のオリジナル盤こそが一般的な評論の対象であり、音の基準となるのですが、困ったことにいつの時代にも通常盤に満足せず、音質を突き詰めようとする我儘な耳を持つ者たちが存在するのです。

 近頃、ラッカー盤からプレスまでの間の2工程を省き、マスター・テープの再現性を極めたモービル・フィデリティー・サウンド・ラボの「ULTRADISC ONE-STEP」シリーズが登場しました。謳い文句は“ワンステップ・ラッカー・プロセス処理でノイズを軽減し、音のディティールを細かく再現>”とあり、これまでにもサイモン&ガーファンクル『明日に架ける橋』やドナルド・フェイゲン『ナイトフライ』、ジャズではビル・エヴァンスやセロニアス・モンクなど有名アルバムがリリースされ始めています。それらはすべて45回転の2枚組という仕様で豪華な箱に入っており、値段もそれなりに高価です。

 ぼくも参加している音楽イヴェント「アナログばか一代」に音楽評論家の湯浅学さんが持ち込んだ「ULTRADISC ONE-STEP」仕様の『ホワッツ・ゴーイン・オン』はこれまでの常識を打ち破るほどの危険な音をしていました。人気曲「Mercy Mercy Me (The Ecology)」は、溝が狭くなる内周に配置されていたにもかかわらず、そこで再生されたベースは「すぐ目の前で弾いてる!」と感じるほどで、超絶にリアル。過去の盤に戻れなくなりそうな、極上の仕上がりでした。もはや元音との音質との比較云々を語るより、これは<別次元>であると捉えた方が心身にも良いのではないかと。

 というわけで、ぼくは1972年に出たヴァン・ダイク・パークスのセカンド・アルバム『ディスカヴァー・アメリカ』をこの仕様でリクエストしてみたいと思います。これまでにも各国盤、再発盤、白プロモのシングル盤など、いくつも聴き比べをしてきましたが、本作は確実に70年代初頭のハリウッドの気分を代表した高音質盤のひとつ。現在最高峰と思えるこの「ULTRADISC ONE-STEP」で是非、確かめてみたいところです。もう何度聴いたかわからなほど大好きな「フォー・ミルス・ブラザーズ」のエキゾチックなストリングス・アンサンブル、オーディオ・チェックのリファレンスにも使うB面1曲目のアラン・トゥーサン作「オカペラ」はどんな夢を見させてくれるでしょう。強靭なバス・ドラムの伸び、よく弾むベースのコシ、ホーン・セクションの切れ味、マリンバがスペイシーに転がる程よい部屋鳴り、奇跡のマイキングが吸い込んだ数え切れない音の粒が宙に舞うエコーを、これでもかと思いっきり拡大して覗き込んでみたいものです。


ヴァン・ダイク・パークス『ディスカヴァー・アメリカ』




Mobile Fidelity Sound Lab, Inc. - Ultradisc One-Step







●直枝政広

1959年生まれ。1983年カーネーション結成。1984年に 直枝政太郎名義でオムニバス『陽気な若き博物館員たち』(水族館 /徳間ジャパン)でソロデビュー。同年、カーネーションがシングル「夜の煙突」(ナゴムレコード)でレコードデビュー。 以後、カーネーションは数度のメンバーチェンジを経ながら数多く の傑作アルバムをリリース。2000年には直枝政広としての初ソロアルバム『HOPKINS CREEK』を発表。同時に鈴井貴之初監督作品『man-hole』のサウンドトラックも手がける。2007年に初の著作となる『宇宙の柳、たましいの下着』を上梓。カーネーションや、鈴木惣一朗とのユニット:Soggy Cheeriosの活動と並行し、ソロ活動や執筆、プロデュース等、精力的に活動中。

カーネーション オフィシャルサイト
www.carnation-web.com


最新リリース:

Soggy Cheerios『Ⅲ』(スリー)
P-VINE / Cosmic Sea Records
品番:PCD-27043
価格:¥2,700+税


Soggy Cheerios「繭」Music Video



Soggy Cheerios オフィシャルサイト
soggycheerios1959.tumblr.com


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