西寺郷太 It's a Pops

NONA REEVES西寺郷太が洋楽ヒット曲の仕組みや背景を徹底分析する好評連載

第20回 ボズ・スキャッグス「ロウダウン」(1976年)

第20回 ボズ・スキャッグス「ロウダウン」(1976年)

―― さて郷太さん。今回の連載「It'sa Pops」のテーマ曲はボズ・スキャッグスの「ロウダウン」です。……というわけで、いまボズの4年ぶりの来日公演を一緒に観終えたばかりなわけですが(2019年5月9日、午後9時20分)。

西寺 最高だったと乾杯しつつの。これは初めての試みですね。ボズは何歳になるんでしたっけ?

―― えーっと。1944年6月8日生まれですから、74歳ですね。

西寺 74歳、信じられない(笑)!

―― 郷太さんとボズの音楽との出会いは?

西寺 復活と騒がれていた『アザー・ロード』のころですから、’88年ですね。ボビー・コールドウェル作の「ハート・オブ・マイン」をボズがシングルにしたころ。日本はちょうどバブルの絶頂期で。箱物行政も華やかな時代というか。たしかボズも東京ドームで行われたイベントに参加してましたよね?

―― 当時のCBS・ソニー洋楽が仕掛けたビッグプロジェクト「KIRIN DRY GIGS’88」ですね。ビリー・ジョエル、アート・ガーファンクル、ボズ・スキャッグス、フーターズらが、’88年7月24日に完成まもない東京ドームで行ったコンサート。高校3年生だった僕も行きましたよ。当時は「ドーム」ではなく「BIG EGG」って呼ばされていましたが(笑)。

西寺 たしかその流れで『THANKS FOR YOU』でコンピレーションCDが発売されているんですよ。英字新聞みたいなジャケットの。僕それを買ったんですよ。中学二年生かな。ボズは「ウィアー・オール・アローン」「ロウダウン」「トワイライト・ハイウェイ」「ジョジョ」「ハート・オブ・マイン」が収録されていました。

第20回 ボズ・スキャッグス「ロウダウン」(1976年)

V.A.
『THANKS FOR YOU』
(1998年)
CBS・ソニー(当時)*廃盤


―― 当時はコンピから入る場面って多かったですよね。ある意味迷いもないし。

西寺 ネットもない時代ですし。こういうオムニバスは便利だったんですよね。なかでも’76年の「ロウダウン」は、マイケルの「ロック・ウィズ・ユー」とか『オフ・ザ・ウォール』(‘79年)と同じ70年代後半のエレガントなファンク・AOR、その空気感を感じて大好きでしたね。




Boz Scaggs「Lowdown」1976

今にして思えば、そこには三年の差があるんでボズの先見性がわかるんですけど。『スロー・ダンサー』(’74年)『シルク・ディグリーズ』(’76年)『ダウン・トゥー・ゼン・レフト』(’77年) 『ミドル・マン』(’80年)とオリジナルアルバムも聴き始めて。’92年に東京に出て来てからは、コンサート会場で手伝う学生バイトが楽しくて(笑)。中野サンプラザのステージ奥でボズに喋りかけたこと、前も話したかもですが。

―― えーっと、‘93年3月に来日していますね。

西寺 大学一年の三月ってことですね。リハの後にステージ横で「中学生の頃からあなたの音楽がメチャクチャ好きでした」って言ったら「何歳だ?」って聞かれて、「19」って答えて(笑)。

―― ……あれ、この話に、郷太さんがプロになってから「再会」とか続きはないんですか。

西寺 今日、あれ以来の生ボズです(笑)。今日は客席からでしたけど、勝手に感慨深かったです(笑)。

第20回 ボズ・スキャッグス「ロウダウン」(1976年)写真:土井政則

BOZ SCAGGS/OUT OF THE BLUES TOUR 2019
5月8日・Bunkamuraオーチャードホール(東京2日目)

<SET LIST>
01. ジョジョ  from『ミドル・マン』1980
02. イッツ・オーヴァー  from『シルク・ディグリーズ』1976
03. ロック・アンド・スティック  from『アウト・オブ・ザ・ブルース』2018
04. ザ・フィーリング・イズ・ゴーン  from『アウト・オブ・ザ・ブルース』2018
05. アイヴ・ジャスト・ガット・トゥ・ノウ  from『アウト・オブ・ザ・ブルース』2018
06. ラジエーター110  from『アウト・オブ・ザ・ブルース』2018
07. ハーバー・ライト  from『シルク・ディグリーズ』1976
08. ジョージア  from『シルク・ディグリーズ』1976
09. ブレイクダウン・デッド・ヘッド  from『ミドル・マン』1980
10. 燃えつきて  from ST『アーバン・カウボーイ』1980
11. ロウダウン  from『シルク・ディグリーズ』1976
12. リド・シャフル  from『シルク・ディグリーズ』1976
13. 何て言えばいいんだろう  from『シルク・ディグリーズ』1976
14. ローン・ミー・ア・ダイム  from『ボズ・スキャッグス&デュアン・オールマン』1969
15. ウィアー・オール・アローン  from『シルク・ディグリーズ』1976
―― ENCORE ――
16. ユー・ネヴァー・キャン・テル(チャック・ベリーのカヴァー)
17. サンクス・トゥ・ユー from『ディグ』2001



―― バンドの演奏もよかったですよね。

西寺 特にドラマー、75年生まれのテディ・キャンベルとベースのウィリー・ウィークス。結局、ボズ・スキャッグスのセンスって「リズム・セクションの審美眼に尽きるな」って。『シルク・ディグリーズ』セッションであのジェフ・ポーカロを見出した人だし。何よりウィリー・ウィークスなんてダニー・ハザウェイの『LIVE』で弾いてるベーシストですし。結果、ボズとリズム・セクションが「2019年」のリズム解釈を更新しているってのが最高にカッコよくて。特に今日の最後の曲、アンコールの……

――  「サンクス・トゥ・ユー」ですね。

西寺 ダブっぽい要素だったり、音色も最高でした。

第20回 ボズ・スキャッグス「ロウダウン」(1976年)
写真:土井政則


―― チャック・ベリーのカヴァー「ユー・ネヴァー・キャン・テル」も演奏していましたね。

西寺 74歳って年齢を考えると、エルヴィス・プレスリーが1935年生まれ。9歳下に1944年生まれのボズ。ロックンロール誕生が1955年って言われてますから、まさにボズはアメリカのロックンロール直撃世代。今日、アンコールで彼がチャック・ベリーやったのもすごくわかるんです。

第20回 ボズ・スキャッグス「ロウダウン」(1976年)

ボズ・スキャッグス
『シルク・ディグリーズ』
(1976年)
Sony Music


―― ロマンティックなメロウヴォイスを聴きに来たお客さんにしてみれば、少しポカーンとする時間だったかもしれませんよね。ただ結果的にAOR名盤『シルク・ディグリーズ』収録曲と彼の真骨頂ともいうべきBLUESナンバーの両方を楽しめるステージでしたね。

西寺 ボズ・スキャッグスが今、仮に最先端のファンクとかソウルに乗っても、彼のヴォーカルはタイムレスに対応できる。結局音楽って、歌ったり鳴らしたり生み出す人がどうやってリズムを捉えていたかに尽きるので。目で見る画素ってよくわかるじゃないですか。例えば、昔のフィルムの写真を見ても色が褪せているとか表面的違いで時代感を感じるぐらいですが、90年代後期から2000年代のガラケーでの携帯写メールとか見るとピクセル数が少ないから大きくするとモザイクになり見れたもんじゃないですよね。

―― なるほど。

西寺 今日、再認識したんですがボズ・スキャッグスは、エルヴィス・プレスリーに匹敵するリズムの画素が細かい4K、8K対応のボーカリストなんだなと。だからいつの時代もクールに響く。今で言えば、ブルーノ・マーズでしょう。ブルーノの経歴はエルヴィスのものまねから始まってるんです。エルヴィス・プレスリー、マイケル・ジャクソン、ブルーノ・マーズ。この人たちってそれぞれの時代を代表する「リズムの画素細か集団」のトップだと僕は思ってますが、ボズも、そのゾーン。「ロウダウン」の歌メロはほぼメロディというよりトークというか。リズムの合間を絶妙にタッチしていくラップ的解釈ですもんね。なにげなく聴こえますが、ボズのような究極の達人にしかできないんで、カラオケとかでは楽しくないパターンです(笑)。

―― ラッパーは?

西寺 ラッパーは、それぞれの「リズムの画素」を味わう面白さだと僕は思ってます。だから、海外の英語のラップを聴いて、意味がわからないのに何が面白いの?っていう人がいるけど、それは単純に「声から生まれるリズムの画素」の楽しみ方をわかってない人なんじゃないかなと。最近で言えば、ケンドリック・ラマーはその最高峰じゃないですかね。あの人は、ぶっちゃけ、喋ってるだけでも感動しちゃうんです。もっと極端にいうと、落語とかにも近いんじゃないかなと。名人は別に面白いことだけでなく、何を喋っていても素敵。基本的にはその口調、リズム感そのものを楽しんでいるんじゃないかなと。

―― リズムの画素だ。

西寺 今日のボズもそうです。彼はその優れた感覚で、自分と同等以上のドラムやベースをどの時代も見つけて組み合わせ、必ずスタジオにもステージにも置いてきた。さっきも言ったようにエポック・メイキングとなった『シルク・ディグリーズ』はジェフ・ポーカロ。で、ボズは、80年代に音楽活動を休んだでしょ?

第20回 ボズ・スキャッグス「ロウダウン」(1976年)

ボズ・スキャッグス
『ミドル・マン』
(1980年)
Sony Music


第20回 ボズ・スキャッグス「ロウダウン」(1976年)

ボズ・スキャッグス
『アザー・ロード』
(1988年)
Sony Music


―― 『ミドル・マン』(’80年)から『アザー・ロード』(’88年)の8年のインターバルですね。

西寺 あれは結局、ヴォーカルの不調もあったと思うけど、あの時代、ちょうどドラムマシーン全盛の時代で。ドラムマシーン的デジタル解釈が何もかも正しい、ブームになり基準になってしまった80年代の一時期。人間ならではのうねったリズムの隙間、ポケットを探すという自分のストロングポイントを、ボズは探しあぐねたんだと思うんですよね。同じ時代、リズム至上主義のミック・ジャガーもドラムマシーン的世界観に心酔して。バンドでキースと喧嘩し、結果的にソロではプログラミングと格闘して「迷走」したとも思える初期ソロ期ですけど。それはそれで、時代を追いかけ続けるミックらしいと言うか。意味があったんでしょうね。その時期にちょうどボズは休んでるんですよ。それもね、潔い良いというか賢いなと。 でもう一度、やりますって言って復活したのが、一時期のシンクラビアやプログラミングへの熱狂が落ち着き、生演奏の魅力が再発見される90年代が近づいた’88年ですから。キース・リチャーズのヒップホップ的解釈も飲み込んだ生演奏の魅力に満ち溢れた傑作ソロ『トーク・イズ・チープ』が、’88年。バンドとしてストーンズが完全復活した『スティール・ホイールズ』が’89年ですもんね。

―― 必要なリズムの画素を埋めたという点ではボズのキャリア歴代最高のドラマーはジェフ・ポーカロということなんですかね。

西寺 うーん。でもジェフとの出会いは大きかったでしょうね。ボズは『スロー・ダンサー』(’74年)では黒人ミュージシャンをいっぱい起用してるんですよ。で『シルク・ディグリーズ』(’76年)を作る時に、のちのTOTOの年長組となるジェフ・ポーカロ(ドラムス)、デヴィッド・ペイチ(キーボード)、デヴィッド・ハンゲイト(ベース)の若手の白人3人組を起用しました。その先見がロック、ファンクの歴史を変え、名曲「ロウダウン」が生まれた。




Boz Scaggs「Lowdown」(Official Audio)1976

―― 「ロウダウン」はやはりリズムが要ですよね。

西寺 70年代半ば当時、ジェフはかなり画期的なレベルでスクエアなドラムが叩けたんだと思うんですよ。BPM、テンポの中に誰よりも方眼の細かいマス目がかけたというか。ルーファス&チャカ・カーンのドラマーのジョン・ロビンソンもミリ方眼を使ったドラマーだったのかな。それまでのナチュラルにファンキーなスーパー・ドラマーよりスクエアな、ある種デジタルに近い冷徹な視点もキープした絶妙に心地よい感覚。いい意味で芳醇な過渡期というか。TOTOも結局、'86年のジャネット・ジャクソンの『コントロール』が決定づけた「クウォンタイズ文化」の中で失速していった気もします。プロデューサー、ジャム&ルイスが主導したリズムを完全に数値で統括する、その世界では達人ジェフのドラムもどんどんメカニカルな「パーツ」化されていったというか。とはいえ、その領域にたどり着くまでにジェフ・ポーカロが果たした役割はとてつもないと思いますね。お父さん(ジャズ・パーカッショニストのジョー・ポーカロ)の影響で、とにかく耳が良かったんでしょうね。

―― 耳の良さではデヴィッド・ペイチ(キーボード)も負けていませんよね。『シルク・ディグリーズ』は事実上、ボズとデヴィットのアルバムとも言われています。ペイチは「ロウダウン」を作った人間でもあります。

西寺 デヴィッド・ペイチにとっては結局、昔も今もボズ・スキャッグスが最高のボーカリストだったんじゃないですかね。もうひとりはマイケル・ジャクソンで「ヒューマン・ネイチャー」での奇跡的な融合な気がしますけどね。そういうとボビー・キンボールに申し訳ないか(笑)。あ、最近遅ればせながら読んだスティーヴ・ルカサーの自伝もめちゃくちゃ面白かったです。

―― そのあたりは、連載第8回TOTO「ジョージー・ポージー」回に詳しいので。

西寺 でも、このレベルになると繋がってくるんですよね。サッカーとかでも上手い選手は上手い選手を感覚でわかりますよね。絶対的ストライカーでありながらスカウトセンスのあるコーチ、監督でもあったボズの『シルク・ディグリーズ』での発掘からTOTOの大活躍、ギネスブックを塗り替えた『スリラー』へ。音楽史の大事なキーマンとして、リズムの画素、解像度を上げたボズの存在があると僕は再認識しました。

―― 潜在意識の深いところにボズがいますね。

西寺 結局マイケルに繋がってしまった言い訳みたいですけど、本気なんですよ(笑)。

聞き手/安川達也(otonano編集部)協力/ウドー音楽事務所


第20回 ボズ・スキャッグス「ロウダウン」(1976年)

BOZ SCAGGS「Lowdown」

Recording:
Release:June,1976
Songwriter:Boz Sccags、David Paich
Producer:Joe Wissert
Boz Scaggs – lead vocals
David Paich – keyboards →TOTO 1978-2019
Fred Tackett – guitar
Louis Shelton – guitar
David Hungate – bass →TOTO 1978-1983 / 2014-2015
Jeff Porcaro – drums →TOTO 1978-1992死去
Carolyn Willis – background vocals
Marty McCall – background vocals
Jim Gilstrap – background vocals
Augie Johnson – background vocals
Joe Wissert – producer


 1976年10月9日付Billboard HOT 100で最高3位(年間49位)を記録(CASHBOXチャートでは1位)、50万枚セールスのゴールド・シングル。R&B5位、アダルト・コンテンポラリー・チャートでは11位を記録した。5週連続全米2位、500万枚のセールスを突破した6thアルバム『シルク・ディグリーズ』からの2ndシングルでボズにとって初の全米トップ10入りシングルとなった。アルバム・ヴァージョンは5分16秒、シングル・ヴァージョンは3分16秒で編集されている。第19回グラミー賞でアルバム『シルク・ディグリーズ』は3部門にノミネート、「ロウダウン」は見事、最優秀R&Bソングを受賞した。ドラム→ベース→エレピ→フルートの順番で入ってくるイントロが秀逸。






第20回 ボズ・スキャッグス「ロウダウン」(1976年)

ボズ・スキャッグス otonanoスペシャルサイト


プロフィール

西寺郷太
西寺郷太 (公式サイト http://www.nonareeves.com/Prof/GOTA.html)
1973年東京生まれ京都育ち。早稲田大学在学時に結成しバンド、NONA REEVESのシンガーとして、’97年デビュー。音楽プロデユーサー、作詞・作曲家として少年隊、SMAP、V6、KAT-TUN、岡村靖幸、中島美嘉、The Gospellersなど多くの作品に携わる。ソロ・アーティスト、堂島孝平・藤井隆と のユニット「Smalll Boys」としての活動の他、マイケル・ジャクソンを始めとする80年代音楽の伝承者として執筆した書籍の数々はべストセラーに。代表作に小説『噂のメロディ・メイカー』(’14年/扶桑社)、『プリンス論』(’16年/新潮新書)など。

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