落語 みちの駅

第九十五回 「第184回朝日名人会」
 11月17日(土)PM2時から第184回朝日名人会。古今亭始「首ったけ」・蜃気楼龍玉「もぐら泥」・古今亭志ん輔「宿屋の富」。仲入り後に春風亭一朝「紙屑屋」・桂文珍「胴乱の幸助」。

「首ったけ」と「もぐら泥」は少し珍しい噺ということになるのでしょうか。仲入りを挟んだ「宿屋の富」と「紙屑屋」は珍しくもありませんが、「胴乱の幸助」は噺の舞台を京大阪から動かしにくいため、東京では珍しい噺ということになります。

 安心して身をゆだねられるスタンダード・ナンバーと何年にいっぺんかの演目との取り合わせというのも、長期一貫型ホール落語にとっては欠くべからざる演出です。

「首ったけ」は半世紀前にはかの志ん生さんで聴きましたから、古今亭のネタと言っていいのでしょう。廓噺のなかでもちょっとひねくれた展開があるため、仕込みがいろいろ必要。そこをしっかりこなした始さんに拍手を贈りましょう。「もぐら泥」も半世紀以上前に志ん生で聴いた記憶があります。あの無精な志ん生さんが、片腕を拘束されてしまった特殊な姿勢をきっちり演じていたのを思い出します。近頃の龍玉さんはメリハリがあって一回り存在感を増してきました。楽しみな人です。

 志ん輔さんの「宿屋の富」はむろん大師匠・志ん生の「古今亭型」をベースにしているのでしょうが、志ん生・志ん朝ほどに主人公の嘘つきぶりを強調していないように思いました。つまり三代目小さんに発する柳家系の長所も採り入れて、より聴かせる噺にしようという意図が感じられたのです。その結果なのか、大いにウケた一席でした。

 一朝さんの「紙屑屋」もその流れをしっかりつかんで、決して噺を小味にはしませんでした。こうした音曲系の噺に大きな高座ぶりを見せられるというのは、ベテランならではのことです。

 文珍さんの「胴乱の幸助」は15年ほど前に大阪NGKでの口演を録音してCD化しているためについうっかりしていたのですが、まだ朝日名人会では紹介していなかったことに気づきまして、改めて註文させてもらいました。

「お半長右衛門」が題材というのは現代に生きる古典落語としてはハンディありなのですが、よくできた噺なので主人公幸助をオモロイおっさんに描ければ問題は一挙に解決します。まずは快演でした。




第九十五回 「第184回朝日名人会」
古今亭始「首ったけ」


第九十五回 「第184回朝日名人会」
蜃気楼龍玉「もぐら泥」


第九十五回 「第184回朝日名人会」
古今亭志ん輔「宿屋の富」


第九十五回 「第184回朝日名人会」
春風亭一朝「紙屑屋」

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。