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落語 みちの駅

第八十四回 扇遊師匠、白酒師匠おめでとう。
 入船亭扇遊師匠が芸術選奨文部科学大臣賞を受賞しました。新人賞は桃月庵白酒師匠。ともどもおめでとうございます。

 芸術選奨は芸術祭賞より格上の賞です。「祭賞」は参加公演をしないともらえませんが、「選奨」はお国の側から、いわば「差し上げますからどうぞ受けて下さい」と差し出す賞。

 だからね、これは頂くけど、参加なんてヤナこった、と言った大物もいました。芸術選奨を受けるほどの人は芸術祭に参加すべきに非ず、後進に道を譲るべしとの常識論もあります。

 落語など演芸が「大衆芸能部門」の枠の中で初めて芸術選奨を贈ったのは1960年代末の6代目三遊亭圓生。芸術祭賞が50年代なかばから落語・演芸に贈られたのにくらべてずいぶん遅ればせたのです。

 しかも当初は受賞者が年に1名。演芸だけでなく芸術性より大衆性を本領とする広い分野を対象にしていましたから圓生の翌年は森繁久彌といった具合で、狭き門だったのです。

 そのためもあってのことか、5代目柳家小さん師匠は芸術選奨受賞をしていません。何度も候補になりながら外れているうちに一応の受賞定年とされる70歳を超えてしまったのです。

 まあ、初の人間国宝になったのは、それを上回る栄誉ではあったわけです。

 平成以降、2名受賞が定例となって芸術選奨受賞の人数は多くなりました。21世紀以降の文科大臣賞受賞者は落語家では古今亭志ん朝、柳家小三治、桂歌丸、桂三枝(現・六代目桂文枝)、林家染丸、立川志の輔、桂文珍、柳家権太楼、柳家さん喬、五街道雲助、春風亭小朝、桂ざこば。

 扇遊さんの控え目で折り目正しく、しかし隙もゆるみもない語り口は、これを機会にもっと認められてしかるべきで、どうか晩成の名人になってほしいものです。

 新人賞の白酒さんは万事に能動的でパワフルなギャグの入れ方にたけた芸で扇遊さんとは対照的ですが、ご両所には高座でひどく汗をかくという共通点があります。

 往年の名人には、体には汗をかくが、顔にはかかないという不思議な秘術の持ち主がいたものです。

 まあ、汗のかきようもないほど怠慢な人のほうが大多数なのですけれど。




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著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。