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落語 みちの駅

第八十回 柳家権太楼さんと「死神」
 来年2月に柳家権太楼の新譜CDを発表します。2枚組で「死神」「鰻の幇間」「藪入り」「抜け雀」の4席2枚組のアルバムです。朝日名人会ライヴシリーズのNO.123、権太楼さんの14。

 例によってライナーノーツは権太楼さんのお話しをうかがって簡潔にまとめました。4演目それぞれについて記しましたが、そのうち「死神」についてを、以下に紹介させていただきます。この噺の結末は圓朝の創作から100年以上経ってもまだ変貌の余地がありそうですが、六代目圓生の「死神」以来の経過に権太楼さんが一区切りをつけたように思われるのです。


「死神」

 爆笑専科のようだった権太楼落語に変化が生じ始めたのは六十歳に手がとどく頃だったろうか。人間表現のヒダが次第に深まり、柔軟になった。「死神」のような、いわば絶対的な暗部のある噺にも本領を発揮し始めた。

「死神」は欧州の民話的題材を三遊亭圓朝が一席の噺に仕立てたものだ。多くの落語家が結末を改変して演じてきたが、昭和戦後は六代目三遊亭圓生が原型に近いと思われるやり方で、なかば絶対的な評価を得ていた。圓生没(1979年)後に再びサゲの改変合戦があったのは記憶に新しい。

 権太楼の「死神」のベースは圓生にある。やっぱりこれだ、と演者本人は言っている。だが、圓生の型も一朝一夕に成ったわけではない。

 生命の炎を接ぎ損ねて主人公は何も言わずに前へ倒れる。これが作者・圓朝の理想としたサゲだ。倒れて、あとは「無」の世界。主人公に「消えた」と言わせる必要もないのだが、時代とともに会場のスペースも大きくなったので、「消えた」と補う有用性はある。

 最晩年の圓生は「消えた」を主人公ではなく、ひややかに見守る死神に言わせるように変えた。これで無の空間が一段と奥を深くしたのだったが、その頃からしばらく、何人もの演者が、意図的に、あるいは偶発的な事故として炎を消すコント志向に走っていた。

 かそけき三味線の爪弾きが御詠歌を奏で、まもなく永遠の暗闇に閉ざされることを予感させる演出は、これまで誰もやっていないすぐれた終末で、欲望に負けた卑しい男の旅立ちにはもったいないほど美しい。

 このあとすぐに舞台を暗転し、演者が引っ込んだ直後に明転して出囃子の演奏に戻って締めることもあるそうだ。効果は上がるが、録音で聴くと少しわかりにくいかもしれない。




柳家権太楼14「朝日名人会」ライヴシリーズ123「死神」「鰻の幇間」「薮入り」「抜け雀」

2018年2月7日発売! ご予約はこちら→ Sony Music Shop



「死神」収録のCD各タイトル好評発売中!


第八十回 柳家権太楼さんと「死神」
三遊亭圓生『圓生百席23「品川心中」上・下「死神」』


第八十回 柳家権太楼さんと「死神」
『落語名人会41 柳家小三治17 「死神」』


第八十回 柳家権太楼さんと「死神」
『立川志の輔らくごのごらく① 「はんどたおる」「死神」』


第八十回 柳家権太楼さんと「死神」
『毎日新聞落語会 立川志らく2「死神」「粗忽長屋」「金明竹」』


第八十回 柳家権太楼さんと「死神」
『毎日新聞落語会 桃月庵白酒3「らくだ」「死神」』

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。