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落語 みちの駅

第七十九回 うまくいった! 11月の朝日名人会
 11月18日(土)PM2時から第174回朝日名人会。前座・金原亭駒六「無精床」。三遊亭わん丈「動物園」、古今亭文菊「転宅」、林家正蔵「山崎屋」、仲入り後・桃月庵白酒「喧嘩長屋」、桂文珍「へっつい幽霊」。

 おかげさまで、とてもよい流れの会になりました。演者数名が競演するホール落語で何よりも肝心は、全体の流れの良さで、個々の出来の善し悪しは実は二の次。演者同士が無闇に張り合っては心地がよくないもの。ネタと演者の並びを一見すれば、ある程度予測がつくものです。

 わん丈さんはよく通るいい声と自然な抑揚の持ち主で、よい流れのスタートを切ってくれました。大いに伸び得る素材であることを証明してくれました。お客様のアンケートでも好評で、二ツ目としては異例の好反応でした。

 文菊さんはその流れをしっかり受け止めて一段と増幅してくれました。早くも年期を感じさせる高座で人間戯画をゆったり語ってくれました。

 正蔵さんの「山崎屋」は昨年からの註文の噺で、こういう穏やかな世界をこの演者に托してみたかったのです。古風な噺なのに今風の北米紀行のマクラから入ったのがよかったのか、次第にお客様との一体感が生まれて、出色の出来栄えになりました。あざとくないネタで客席をつかむ、大器のありようです。

 仲入り後は白酒さんで会前半とはリズムもスピードも一変し、ピンピン跳ねるような笑ワールドに変換しました。これまた演者個人の本領発揮が全体をふくらませていく好例。

 そして文珍さんとなれば、ここまでの流れに乗っていかようにも盛り上げられる人ですから、会はめでたくたっぷりの大団円に至った次第です。

 プロデュース・サイドがいろいろと狙っても過半の演者の本気と協力がなければ、こうはうまくいかないもの。みなさん、ありがとうございました。




第七十九回 うまくいった! 11月の朝日名人会
桃月庵白酒「喧嘩長屋」


第七十九回 うまくいった! 11月の朝日名人会
林家正蔵「山崎屋」


第七十九回 うまくいった! 11月の朝日名人会
古今亭文菊「転宅」

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。