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落語 みちの駅

第七十四回 一朝さんの旬のアルバム
 8月23日に『「朝日名人会」ライヴシリーズ121春風亭一朝1』を発売します。「中村仲蔵」「稽古屋」「淀五郎」「芝居の喧嘩」4席2枚組。まずは一朝ここにありのアルバム。

 ベテランの一朝さんなのに、ここまで一朝色の強いCDのリリースは初めてかと思います。

 こうしたなりゆきの主原因は制作者の私にある、とも申せましょう。餓鬼の頃より手癖が悪く、の台詞ではありませんが、落語も歌舞伎も私には幼馴染。前の歌舞伎座の杮(こけら)落としの興行も覚えているし、その3年前の初代中村吉右衛門の仁本弾正(於・東劇)も覚えていると言ったら年齢がバレますが――。

 古い馴染の芸能には、自分もわがままになりがちなもの。なんでも結構の温和な接し方がしにくく、落語も歌舞伎も大好きでありながら、ところどころ、時折り、大嫌いになってしまうのです。

 芝居で言えば漫然と七五調の黄色い声を張る役者は見ているこっちが赤面してしまう。芝居噺や音曲噺も重みと渋みと控えめの“芝居ぶり”、“音曲ぶり”でないとイヤ。

 そのくせ、地味になりすぎてはやっぱり気に入らないというのですから困ったものです。

 一朝さんの芝居噺、音曲噺はホンモノだとかねてから思ってはいたのですが、長年付き合ってきた自分のわがままに操をたてて、あえてやせ我慢を続けてしまったというのが実情です。

 今の一朝さんはこの種の噺を過不足なく、しかもおもしろく、少しもキザになることなく、しかも充実感たっぷりに聴かせてくれる希有な人です。役者きどりを感じさせることのない、まさに純粋な噺家の芝居噺、音曲噺になっています。

 まだ声の色艶は若々しいので、あと十五年くらいは旬が続くことかと思います。



著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。