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落語 みちの駅

第七十一回 志ん朝の真と芯
「シンチョウ」と言えば昭和の初頭まで五代続いた三遊亭新朝だったものが、昭和の真ん中には古今亭志ん朝のことになった、というのは落語三百年史の大きなエポックだと思うのですが、その三代目志ん朝を夭折した往年のスーパースター、ジェームズ・ディーンのように祭りあげたい人々からすれば、カビ臭い考えになってしまうのでしょう。

 6月13日(火)21時からのNHKBSプレミアム「アナザーストーリーズ 運命の分岐点」は志ん朝17回忌手前の、なんで今?の時期に降って湧いたような番組で、そのためか初めにストーリーありきで苦労してまとめ上げた形跡アリアリの1時間でした。

 死後に看板が揚がるのが芸人の最高の名誉。これは六代目三遊亭圓生がよく言ったことばです。盛大な仏事・法事は無用、生前に変わらず名声を保ってこそ名人。現代の事象に置き換えれば、死後20年たっても放送やCD・DVDで聴かれることが芸人の本望ということなのです。こうして志ん朝の特番が放映されるのはありがたいことです。

 私も取材を受けたのですが、始まってまもなく、すでにコンテは完了していて、その裏付けとなる発言を求めてQ&Aをやっているということがよくわかったので、ほどほどに折り合いつつ私論はまげずの線でお答えをしておきました。

 どうしても談志さんをアンチテーゼにしたがる。強い表現意欲とは裏腹のシャイな人柄。出世をめぐる本人とライバルの対抗心。つまり、白と黒、光と影の構図で要素を並列的にアレンジしても、志ん朝という破格の対象の本質に肉薄できるものではありません。

 芸(演技すること)は好きだけど、人前でやるのはどうもねえ――。何度も本人の口から聴かされた、この矛盾いっぱいのことばの解析を私は急ぎません。

 理屈っぽい芸論は野暮だと嫌いましたが、純粋な芸談は好きで、何度かお付き合いしています。明快に見えてわかりにくい人。それが私の志ん朝観です。



第七十一回 志ん朝の真と芯

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。