落語 みちの駅

第七十回 5月「朝日名人会」のリポート
落語 みちの駅
 5月20日14時から第169回朝日名人会。当初は桂歌丸さんが仲入り前の出番でしたが、4月なかばに入院、5月いっぱい休演という事態になって、急遽橘家圓太郎さんに2席をお願いしました。朝日名人会18年の歴史のうち、こんなことは5、6回ありますから、3年に一度はあるということでしょうか。

 柳亭小痴楽「幇間腹」、橘家圓太郎「厩火事」、金原亭馬生「死神」。仲入り後は当初からの予定通りで橘家圓太郎「五人廻し」、桂文珍「くっしゃみ講釈」。

 小痴楽さんが一段と「はなし家」らしくなってきたのはうれしいことです。馬生さんの「死神」はあまりドラマにしないお伽話型で、結末は独自のもの。初めて死神に出会ったときに息を吹きかけて遠ざけようとするのは6代目三遊亭圓生もやった段取りですが、そこからサゲを導きました。

 圓太郎さんの2席のうち、「五人廻し」はこちらの強い注文だったので、もう1席は演者熟練の「厩火事」をお願いしました。両席とも結構だったと思います。対話劇の「厩火事」とスケッチのオムニバスを流し聴かせる「五人廻し」の捉え方と演じ方がきっちり仕分けられていたのは、それが当然だとは言うものの、案外なおざりにされていることが多いのです。

 文珍さんの「くっしゃみ講釈」には大家(たいか)の風格を感じました。誰もが犬糞のくだり、八百屋の店先での「からくり一段」や釈場での「くしゃみ」場面をしつこくやって笑いを取ろうとしますが、文珍さんはサラッと流すようにこなしてくれました。噺が愚に落ちるずっと手前で充分に笑いを取るというのは、インテリジェンスの所産でしょう。

 帰宅したら桂歌丸さんからの休演を詫びる挨拶のハガキが届いていました。療養して必ず再起しますのでよろしく、とのこと。たび重なる病魔にくじけることなく、衰えを知らない気力と知力に感動を覚えた次第です。




第七十回 5月「朝日名人会」のリポート
独自のサゲも印象的だった金原亭馬生の「死神」。


第七十回 5月「朝日名人会」のリポート
「厩火事」と「五人廻し」の2席を好演した橘家圓太郎。


第七十回 5月「朝日名人会」のリポート
心境著しさを感じさせた柳亭小痴楽「幇間腹」。

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。