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1970年生まれ(昭和45年生まれ)のotonano編集部員が語る80年代洋楽体験記

80年代洋楽メガヒット!PARADISE - MEGA HITS '80s連載企画⑧

極私的80sザ・コラム① G.I.オレンジ


【1986年4月22日@神奈川県民ホール】

いまも解けないサイキックなマジック!?


 G.I.オレンジ『G.I.オレンジ『サイキック・マジック』(1985年7月21日発売)
アナログLP盤(CBS・ソニー/当時/廃盤)28AP3055


  G.I.オレンジ。なんとも甘酸っぱい語感。1stアルバム『サイキック・マジック』の帯に印刷されたキャッチコピーは“ポップン・ロックの四銃士。見て、聴いて、触れて感じるニュー・ヒーロー from London”。そう。国籍としては英国発だが、正確には日本のレコード会社、当時のCBS・ソニーが独自に企画し売り出した文字通りの和製洋楽アイドル・グループだ。カール(ヴォーカル&ギター)、マーク(キーボード)、サイモン(ベース)のウィットワース家美形3兄弟に、友人ギャリー・ホルト(ドラム)が加わった4人組で何故か“ロンドンの裕福家庭育ち”という、音楽とは関係のないプロフィールが前面出しされていた。「G.I.」と「オレンジ」の繋がりは昔も今も分からないが……。


G.I.オレンジG.I.オレンジ「涙でブレイク・アウェイ」(1985年2月25日発売)
アナログドーナツ盤(CBS・ソニー/当時/廃盤) 07SP 864

G.I.オレンジG.I.オレンジ「サイキック・マジック」(1985年6月21日発売)
アナログドーナツ盤(CBS・ソニー/当時/廃盤) 07SP 893


  デビュー曲「涙でブレイク・アウェイ」を経て、ホントに涙のブレイク曲となったのが「サイキック・マジック」。ミュージックビデオ(以下MV)は、盛況MTVのひとつの到達点とも言われたMVの金字塔、デュラン・デュランの「ハングリー・ライク・ザ・ウルフ」を意識したと思われるプールの映像も印象も深ければ、水まで深かったようだ。「サイキック・マジック」はオリコン洋楽シングルチャートでは、人気絶頂マドンナの「イントゥ・ザ・グルーヴ」と熾烈な首位争いを展開。1985年8月19日付から9月30日付の間、2週間はマドンナにその座を譲ったものの合計で5週間1位を獲得。ちなみに枕詞のように『夕やけニャンニャン』テーマ曲の記述を目にするが、当時欠かさず番組を観ていた筆者の記憶には正直ウスい。中3帰宅部になり時間を持て余しブラウン管に映るおニャン子クラブばっかりにモンモンとしていて違うところばっかりに目が行っていたからだろうか。会員番号4番は解けない永遠のLOVEマジック。


神奈川県民ホール神奈川県民ホール(横浜市中区山下町3-1)


  翌年春。僕は高校に入学。G.I.オレンジのことはすっかり昨年の出来事になっていたはずだった。が、たまたま地元TVKの呼称“トマト番組”の視聴者チケットプレゼントに応募してしっかりと当選したことでコンサートを観に行くことに。1986年4月22日。僕の洋楽ライヴ初体験。高校から始めたテニス部の仲間を部活後に無理やり連れてラケットを持ったまま神奈川県民ホールに向かい、お姉さんに案内されるがまま座った席がステージど真ん中の前から3列目。周りは今日だけは1986年のマリリンみたいな婦女子がズラリ。さっきまでのテニス汗が乾いていないTシャツに、さらに何だか違う汗腺からタラリ。緊張。ゴクリ。


G.I.オレンジ「ワン・グッド・キス」G.I.オレンジ「ワン・グッド・キス」(1985年9月21日発売)
アナログドーナツ盤(CBS・ソニー/当時/廃盤) 07SP 915


  幕が上がった。なんか近い!近い!! いまステージ上のメンバーと目が合った!? と思うたびに視線を反らさざるを得ない申し訳ない気持ち。「カールぅ~」「マークぅ~」「サイモぉ~ン」「ギャリぃ~」。黄色い歓声を後ろから浴びる怒濤の90分。英語にも関わらずやたらと語尾を長く伸ばす「サ~イキ~ックマァ~ジ~ック」の大合唱はやっぱり凄まじかった。「ワン・グッド・キッス」という曲で、ステージのメンバーから投げKISSも飛んできた。残念ながら演奏は記憶に残らず。「アンコール、アンコール」の金切り声だけが、今もしっかりと耳に残る。これが僕の洋モノ“生”初体験。


神奈川県民ホールホールニュースアーカイブより神奈川県民ホールホールニュースアーカイブより


  さて。山下公園の向かいに立つ海岸通りのシンボル、この“県民”(地元愛称)。ここで観たライヴの最多アーティストは計9回で佐野元春。そんななかでマイベストワンは1990年7月12日のフーターズ公演。新聞発表の早朝から馬車道にあったウドー横浜の整理券配布に並んだ甲斐があってステージやや右の前から5列目。客席に降りてきたエリック・バジリアンにマイクを向けられ「上を向いて歩こう」を歌ったことは忘れられない。最高の想い出。しかし残念ながら、物理的な座席の位置では、ステージど真ん中の前から3列目のG.I.オレンジを超えていない。


神奈川県民ホール 大ホール客席(客席定員2493人)神奈川県民ホール 大ホール客席(客席定員2493人)


  覚えている洋楽だけでもシカゴ、ブルース・ホーンズビー&ザ・レインジ、トレイシー・チャップマン、シンデレラ、ケニー・G、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース、チープ・トリック……何十回も足を運ぶ県民だが超えることができないG.I.オレンジの位置。別に座席の座り位置を目的に“県民”に足を運んでいるわけでもないのだが、NHKホールをモデルにした美しい客席に向かうたびにどうしても自分が座る席が気になる。そのNHKホールや横浜アリーナ、日本武道館では既に体験済の最前列。最高の気分。でも、“県民”ではなぜか突破できないステージ中央の前から3列目。佐野元春ではステージ前から4列目が過去に2回あった。見えない3列目の壁……マジック!?


  今でも“県民”に入るとテニスラケットを持った15歳チェリーボーイの自分に会える気がする。だからだろうか。2列目、さらには最前列の席に座った自分をいつも想像する。その位置から観える光景はいったい何があるのかなぁ。モノ凄く気になる。でも、もしかしたら超えてはいけない何かがそこには……。31年。僕は解けないサイキックなマジックの中にいる。


文・安川達也(1970年10月生まれ・横浜出身/OTONANO編集部)

写真提供:神奈川県民ホール 施設運営課



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