落語 みちの駅

第六十四回 第165回朝日名人会
落語 みちの駅
 12月17日(土曜日)、14時から第165回朝日名人会。寒波が去って穏やかで暖かい晴天。毎年のことですが、12月第3土曜のこの日、会場の有楽町マリオンの周辺は宝くじ買いの行列が延々と続いていました。

 この日のトリは「富久(五街道雲助)」ですが、朝日名人会では発足から17年にしてまだ「御慶(富八)」が一度も高座にかかっていません。「宿屋の富(高津の富)」も4回演じられただけ。「水屋の富」が1回。「富久」は3席目(1回目は柳家権太楼、2回目は柳亭市馬)。

 暮れの噺は他にもいろいろあるために「御慶」がついつい後回しになったということなのです。

 さてトリの雲助さんの「富久」は約40分、堂々と、粛々と語り進めて、派手ではありませんが後日に回想しても色褪せることのない、大真打の高座ぶりを示してくれました。

 どこをどう言い換えたとか、こんな新しい入れ事があったとかが話題になっているうちは演者も聴き手も尻が青いのでありまして、かつて詩人が「薔薇の木に薔薇の花咲く なにごとの不思議なけれど」と詠った境地こそが、前衛にあらざる古典の真髄ではないでしょうか。

 仲入り前・柳家三三さんは「鰍沢」。圓朝の速記録あり、近年の圓生の名演ありで、これも素直に取り組むしかない噺です。しっかりその後継の役は果たしてくれました。終演後のアンケートでも好評でした。月の輪お熊の妖しい色気はまだ充分とは言えませんが、これは求めて無理のあること、まずは当代「鰍沢」の鮮度の高い口演でした。

「鰍沢」「富久」の間で立川生志さんの「看板の一」が屈託なく朗らかに笑わせてくれました。時事風刺もまじえ、この出番をうまくこなしてくれる生志さんの芸人ぶりが光りました。

 古今亭文菊さんの「四段目」も落語らしい、芝居の真似も臭くならない出来栄えでした。口跡も語り口もいいのですが、商家の旦那や番頭が職人か遊び人のように巻き舌になるのは考えもので、そのあたりが今後の課題でしょうか。

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。