「音の生々しさが最大の魅力!
DSDレコーディング作品に大注目!」

DSD音源解説 オーディオ評論:三浦 孝仁

 ソニーミュージックから演奏のクォリティと音のリアリティを追求したハイレゾ音源が続々と登場する。今回は厳選された20作品のリリース。そのリストを見ると、フュージョンで人気を集めたキーボード奏者の村松健の代表作が5作品、ギタリストで音楽プロデューサーとしても活躍している鳥山雄司の代表作が同じく5作品とアーティスト的に目立っているが、私は20作品のなかに音質に徹底的にこだわったDSDレコーディングが合計7作品もあることに大注目している。ハイレゾ音源でもDSDフォーマットがグンと増えてきているので、もうDSDという名称はおなじみだろうと思う。

 

 そうそう、せっかくの機会だから、ここでDSDについて原理の説明しておこう。DSDとはダイレクト・ストリーム・デジタルの略称で、1999年に発表されたスーパーオーディオCD(SA-CD)の記録方式として登場した。DSD方式が登場するまでは、PCM(パルスコード変調)と呼ばれる方式がデジタルオーディオでは一般的だった。たとえばCDに使われているPCMは、音=パルスの大きさを16桁の「0」か「1」(二進法)で表しており、1秒間を44,100に分解して、それぞれ(1/44,100秒)を16桁の二進法で表現している。つまり、CDのPCMは16ビット(桁)で44.1kHzのサンプリングということになる。たとえばハイレゾ音源の24ビット・192kHzサンプリングとは、1秒を192,000に分解しており、音の大きさを24桁の「0」か「1」の二進法で表現しているのだ。これがPCM方式デジタルオーディオの原理だと理解してほしい。ちなみに、ハイレゾ音源でポピュラーなFLACは、PCM方式を圧縮したもので、元通りのPCMに復元可能な可逆圧縮フォーマットなのである。

 

 いっぽう、DSD方式のデジタルオーディオは、PCMとはまったく異なる仕組みになっている。音を数値化するという意味ではPCMもDSDも同じなのだが、DSD=ダイレクト・ストリーム・デジタルでは音の大きさを「0」か「1」の1桁だけ(1ビット)で表現する、きわめつけのシンプルさが最大の特徴。エッ、そんなことが可能なの? と疑問に思ったとしても無理はない。実はDSDではデルタ・シグマ変調という数式を使っているのでそれが可能なのだ。DSDでは1秒間をCDの場合の64倍にあたる2,822,400に細かく分解していて、それを「0」か「1」で連続するデジタル・ストリームとして表現。このメリットはなにかというと、原音である音の波形を白か黒で細密に描いた濃淡のように視覚的に表すことができること。今ではDSD(DSD64=2.8MHz)の2倍のスピード(DSD128=5.6MHz)や、4倍のスピード(DSD256=11.2MHz)という高速DSDフォーマットも登場している。

 

アルバム「アフロ・ブルー」レコーディング風景アルバム「アフロ・ブルー」レコーディング風景

 DSDに関する原理の説明はこのくらいにしておこう。今回リリースされた20作品のうちの7作品がDSDレコーディングなのだが、そこではSONYが開発したSONOMAというDSD録音システムが使われている。私が個人的に感慨深く聴きなおしたのは、キーボード奏者で日本を代表するアレンジャーである笹路正徳による2002年「アフロ・ブルー」だ。この作品は米国ロサンゼルスを中心に活躍している超一流ジャズミュージシャンが結集した、壮大なビッグバンドの音世界。有名なL.A.のキャピトル・スタジオにSONOMAを運び入れて一発録音を敢行した、実にスリリングなジャズが愉しめる。広大なスタジオ空間にはオーディエンス席が設けられて観客がいることも演出上の大きな特徴。DSDレコーディングの取材としてスタジオを訪れていた私は、観客のひとりになっていて拍手をしている。この「アフロ・ブルー」の前作で同じコンセプトによる2000年「バードランド」は、これまた有名なL.A.のオーシャンウェイ・レコーディングスという録音スタジオでDSD一発録音というビッグバンド演奏が展開されている。

 

“ケチャ” レコーディング風景(アルバム「スローライフへの誘い」より)“ケチャ” レコーディング風景(アルバム「スローライフへの誘い」より)

 DSDレコーディングは、音の生々しさが最大の魅力といえる。たとえば日本を代表するパーカッション奏者のウイリー・ナガサキのリーダー作品(2004年)「海上の道」ではパルシヴなパーカッションの音色が自然な雰囲気に包まれて楽しめる打楽器アンサンブルだし、聴いていると脳内にアルファ波が発生して心地よくなるというバリ島のガムラン「スローライフへの誘い」も、個人的なオススメ。2002年の初夏にガムランの本場であるバリ島に録音機材を大量に持ち込んで収録した力作なのである。

 

アルバム「ALL NIGHT WRONG」レコーディング風景アルバム「ALL NIGHT WRONG」レコーディング風景

 DSDレコーディングはライヴ演奏でも音の真価を発揮している。ソニーミュージックにはライヴ演奏もできるカフェテリア空間としてつくられたLIVETERIAがあって、高中正義がそこで演奏テクニックを駆使した演奏を繰り広げてくれる「THE MAN WITH THE GUITAR」(2001年)は、タカナカ・バンドの完成度の高い演奏もさることながら、LIVETERIAという演奏空間の広さと明るい響きが感じられることにも注目。そして、超絶技巧ギタリストとしてプロからも尊敬されているアラン・ホールズワースの2002年「ALL NIGHT WRONG」は、ライヴのメッカとして知られた六本木ピットインでのDSDレコーディング。比較的狭い空間の六本木ピットインに満員の聴衆が詰めかけた白熱の演奏。この作品で聴くことが出来る、チャド・ワッカーマンのドラムソロは凄まじい!  今回のリリースで私がもうひとつ注目しているのは、TV番組「世界遺産」のために鳥山雄司が全曲書き下ろしで挑んだ2003年の「[世界遺産]組曲」。スタジオ収録の綿密なDSDレコーディングで、音の厚みや叙情的な曲調など、作曲家・アレンジャーとして充実した鳥山ワールドが堪能できるのだ。

 

アルバム「[世界遺産]組曲」レコーディング風景アルバム「[世界遺産]組曲」レコーディング風景

オーディオ評論:三浦 孝仁

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